米起業家のイーロン・マスク氏が引き続きスポットライトを浴びるのは間違いない。舞台は買収で経営権を握った米ツイッターだ。
従業員を一気に半減し、長時間のハードワークを要求。トランプ前米大統領のアカウント復活に加え、自身の最高経営責任者(CEO)退任もツイッター投票で決めた。先の読めない展開が続く。
一ネット企業の混乱と片づけられない。インフラ化したSNS(交流サイト)が社会に与える影響は大きい。その動向を世界が警戒する。
国連や欧州委員会も関心
「ツイッターは自社のプラットフォームが関連する害を理解し、解決策を講じなければならない」。国連のトゥルク人権高等弁務官はマスク氏への手紙に書いた。同氏と会談した欧州委員会のブルトン委員(域内市場担当)は、投稿を管理し偽情報を取り締まる能力があるか確かめる必要があると迫った。
人種や性的嗜好に関する誹謗(ひぼう)中傷の投稿が増えたとのデータもある。ツイッターはブログで「間違いもするが、学び、物事を正す」と訴えるが、行動で社会を納得させられるか問われる。
ツイッターに限らない。いま噴き出すSNS問題にどう対処するか。2023年の世界にとって重要課題だ。
米国ではSNSによる世論操作や外国のスパイ活動への懸念が強い。コンテンツ管理についてSNS企業に幅広い免責を認める通信品位法230条の見直し論が浮上している。インスタグラムなどで自傷行為の投稿を大量に見た少女が自殺した英国では、法規制が必要との声が上がる。
目立つ日本の無防備
日本も対岸の火事ではない。備えを固めるときだ。
IT(情報技術)企業が会員のセーファーインターネット協会は22年10月、偽情報や誤情報が広がるのを防ぐため「日本ファクトチェックセンター」を設立した。専門家が事実確認し、その結果や参考情報を発信する。ツイッターをはじめとするSNSの利用が一般化している日本にとって意味ある一歩だが、他国に比べ動きの鈍さは否めない。
各国のファクトチェック機関の連合組織「国際ファクトチェックネットワーク(IFCN)」によれば、22年12月26日時点でIFCNの認証機関は世界に85あるが、日本はゼロ。ロシアのウクライナ侵攻に関わる情報を検証する国際連携にも日本は加わっていないという。各国でファクトチェック人材の育成やメディア教育が広がるなかで日本の無防備が目立つ。

心理戦や健全化に必要な技術
米マイクロソフトは22年の情報セキュリティー報告書で「インフルエンスオペレーション(心理作戦)」を大きく取り上げた。強権国家がSNSでプロパガンダを拡散する行為を勢いづかせているからだ。トム・バート副社長は日本も警戒せよと説く。
例えば中国だ。現在はインフルエンサーを通じTikTokやユーチューブなどで中国のファッションや映画について発信している。日本人と「信頼関係」を築く段階にあるが、「やがて中国政府のよさを訴えたり、人権侵害への懸念を否定したりするプロパガンダが含まれだす」。
台湾有事の緊張が高まれば心理作戦は加速する可能性があるとみる。脅威は間近にあると考えるべきだろう。
さらに海外では、誤情報や偽情報を発見し対策をとるスタートアップへの投資が活発だ。「SNSの健全化」がイノベーションの対象になる動きといえる。日本も大手カメラメーカーなどに画像処理の技術が蓄積しているはずだ。コンテンツの改ざんを見破る取り組みなどに積極的に関与する姿勢が求められる。
有用なSNSを使いこなす
忘れてならないのは、SNSには社会を前に進める力が内包されていることだ。
スタートアップのスペクティ(東京・千代田)は多様なデータを人工知能(AI)で解析し、災害対応やサプライチェーン(供給網)マネジメントに使える情報として自治体や企業に提供する。カメラ映像や気象、交通データなどを幅広く活用するが、SNS投稿が肝となる。
村上建治郎代表取締役が言う。「スマートフォンを手にした人たちが目の前の出来事を写真や動画に撮り、SNSに発信する。これまで見られなかったものがすぐに見える」。デマ対策などに手間はかかるが、それでも災害や事件・事故の端緒をつかむのに人の力や知恵が介在するSNSの情報は役に立つ。
SNSを使いこなす道筋をつけられるか。ネット時代を生きる私たちの正念場だ。
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