金融危機など起きてほしくない。それでも歴史が韻を踏むなら、2023年は危機を覚悟すべき年だ。米国のカリスマエコノミスト、エド・ハイマン氏は22年11月、顧客の投資家に警告している。「危機やショックが起きる確率は100%だ」と。
これまでも、米連邦準備理事会(FRB)が利上げをした後にはほぼ例外なく世界のどこかで危機が起きた。
1994年のメキシコ危機、97年からのアジア危機、2000年のIT(情報技術)株バブル崩壊、米証券大手リーマン・ブラザーズの破綻につながる07年からの世界的な危機。そしてFRBは22年、歴史的なインフレを封じるために通常の2倍速、3倍速で利上げを始めた。
巨額の現金持つ日本企業
金融政策の効果は1年後に表れるとされるが、予兆はもう噴出している。暗号資産(仮想通貨)交換業者のFTXトレーディングの破綻は業界の連鎖倒産を招き、信用悪化で顧客資産の流出に苦しむ欧州金融大手クレディ・スイスは、大幅な事業売却を含む再建策に生き残りを懸ける。
当局は監視が及ばないファンドなど「影の銀行」への警戒を強めている。「過大な借金を背負って投資をしているが、マネーがどこに向かっているかの把握は難しい」。FRBは11月、金融安定報告書で限界を認めた。
企業による金融危機への対応は、貸し渋りに備えて現金や借入枠を確保しておくのが常道だ。しかし多くの日本企業にとっては正しい処方箋ではない。すでに巨額の現金を持っているからだ。
QUICK・ファクトセットによると、日本の上場企業は直近で200兆円弱の手元資金を保有する。規模に対してどれぐらい持っているかを比べるために株式時価総額に対する割合を見ると、米国(7%)、欧州(8%)、アジア(15%)を大きく上回る26%と、圧倒的な金持ちだ。
危機に直面した世界の企業が現金を確保するために事業を売りに出せば、日本企業にとっては安く買うチャンスになる。金融引き締めで株価も割高感が薄れている。
難しいが、報いもする決断
危機下の決断は難しいが、報いもする。三菱UFJフィナンシャル・グループはリーマン危機さなかの08年、9500億円を投じて破綻寸前の米モルガン・スタンレーに出資した。今も21%の株を握る。昨年度の純利益の38%はモルガンの貢献であり、保有するモルガン株の時価は自社の時価総額の半分近くに及ぶ。
日本企業の存在感は低下した。1989年は世界の時価総額上位500社のうち203社を占めていたが、22年11月末では31社にすぎない。逆風を萎縮ではなく、巻き返すきっかけにすべきだ。
もちろん弱い企業は危機が致命傷になる。新型コロナ、ウクライナと衝撃が続き、経営環境は激変している。
コロナをきっかけとする「非接触」が拍車をかけた電子商取引の普及は、取り組みが遅れていた日本の老舗アパレル、レナウンを破綻させ、生活雑貨が人気だった米ベッド・バス・アンド・ビヨンドを破綻の淵に追い込んだ。危機は、水面下で広がっていた競争力の差をあぶり出し、「適者生存の法則」の厳しさを裏付けるだろう。
企業選別の舞台は市場だ。名うての投資家は適正価格から割高になった株や社債を売り、割安になったものを買って経営に影響を及ぼす。
12月に「潮目は変わった」
「sea change(潮目は変わった)」。米著名投資家のハワード・マークス氏は12月に強調している。カネ余りが続いたこれまでは、借り手企業の黄金時代だ。投資家は収益を得るため実態に目をつぶってでも株や社債の上値を追うしかない面があった。今後は優良企業だけが投資家に選ばれ、不当に売られた企業を探す「バーゲン・ハンター」が活躍する。
先取りするかのように、割安株投資で鳴らすウォーレン・バフェット氏は22年、荒れ相場のなかで世界の株を買い続けた。米石油メジャーのシェブロン、半導体受託製造の台湾積体電路製造(TSMC)、そして日本の総合商社。
今こそ光る市場の格言がある。「強気相場は悲観の中に生まれ、懐疑とともに育ち、楽観とともに成熟し、陶酔とともに消えていく」
MSCI世界株指数は22年、1月につけた史上最高値から一時2割以上も下げた。金融緩和が支えた強気は陶酔とともに消えた。悲観の中に活路を見いだす投資家や選ばれる経営者は誰か。次の勝者を占う1年が始まる。
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