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中国、個人SNS影響14倍 微博を日経分析 政府系より拡散で「愛国」先鋭化 「炎上」頻発、陰謀論も

日本経済新聞が中国版ツイッターの微博(ウェイボ、総合・経済面きょうのことば)の投稿データを分析すると、個人が愛国的言論の拡散に与える影響力が政府の14倍超に膨らんでいた。市民発の「炎上」が頻発し、統制が利かないリスクが高まっている。

 

「外国反中勢力の目的は何か。我々の内部対立を悪化させることだ」。新型コロナウイルスの感染を抑え込むゼロコロナ政策への抗議活動が広がった11月、「ウサギ主席」と名乗るユーザーが微博上の180万人のフォロワーに向けて投稿すると、1800回以上リツイートされ、3万超の「いいね」がついた。

この投稿者は米ハーバード大学出身の銀行家。広東省トップなどを務めた故・任仲夷氏の孫にあたる。こうしたインフルエンサーが根拠のない陰謀論を拡散する。

日経新聞は中国のSNS上でのナショナリズムの広がりを分析するため「辱華(ルーフア)」という言葉に着目した。「中国を侮辱している」といった意味を持ち愛国主義的なユーザーが多用する。習近平(シー・ジンピン)指導部が発足した12年以降の「辱華」を含む投稿、約24万件を取得し、誰がどのタイミングで発信したかを調べた。

18年11月21日に投稿が初めて1000件を超えた。イタリアの有名ブランド「ドルチェ&ガッバーナ(D&G)」がイタリア料理を箸で食べようと苦戦する中国人の動画広告を公開。翌22日には辱華を含む投稿が7000件まで増えた。21年には外資系企業が新疆ウイグル自治区の綿の不使用を決めると不買運動の投稿が相次いだ。22年9月までに「辱華」を含む投稿が1000件を超えた日は18日あった。

当初は官製メディアがキャンペーンの火付け役となる例が多かった。最近は個人インフルエンサーが主導しているように見える例が目立つ。

50回以上リツイートされた辱華に関する投稿を主な発信者の属性で分類すると、18年は全385件中、官製メディアが126件と約3分の1を占め、個人は46件だった。21年~22年9月は全325件中、官製メディアが17件に急減する一方、個人が244件と政府の14倍超に膨らんだ。

米デンバー大学のスイシャン・ジャオ教授は「習氏はネットを含む国内の情報をコントロールしてきた」と話す。個人のSNSの動きも国が裏で指揮しているのではないかとする見方もある。

市民の間で膨張するナショナリズムは習指導部の意図に沿うとは限らない。ペロシ米下院議長の訪台時にはチャン・シャオヤンと名乗るユーザーが「(搭乗機を)撃墜する戦闘機はどこにいたのか。この国はなぜこんなに腰抜けなのか」と当局批判を投稿した。

微博の検索エンジンで「辱華」に関するデータは11月以降、ほとんど拾えなくなった。理由は不明だが愛国的な言論の暴走を恐れた当局が規制した可能性がある。今回の分析は10月以前に検索した結果で実施した。

(朝田賢治、宗像藍子、マリアン・チョウ、シシー・チョウ、グレース・リー)