· 

東映社長、ONE PIECEで最高益の次は「実写を当てる」

2023年3月期の連結純利益は3期ぶりに過去最高を更新する見通し。持続的に成長するための戦略を手塚治社長に聞いた。

――国内外でアニメの人気が高まっています。

「東映グループの海外売上高はかなり伸びている。米クランチロールなど動画配信サービスによって視聴環境が整い、裾野が広がった。日本のアニメはストーリーの構成が複雑でキャラクターの造形に奥行きがある。コロナ禍の巣ごもり視聴をきっかけに日本アニメの面白さに気づいて、その後映画館に足を伸ばしたということだろう」

――動画配信サービスの存在感が高まっています。どのような関係を模索しますか。

「これまでも多様な視聴メディアに向けてコンテンツを作り、共存関係を築いてきた。レンタルビデオ店が台頭した時はレンタル店専用の『Vシネマ』を作ったし、今は配信向けにドラマを作り買ってもらっている。コンテンツは色々な楽しみ方で見てもらえればいい」

――映画事業の成長戦略は。

「関連会社の東映アニメーションは『プリキュア』シリーズなどのオリジナルIP(知的財産)と、『ワンピース』シリーズなどの原作IPでハリウッドを狙う。東映本体は『スーパー戦隊』シリーズや『仮面ライダー』といった実写IPを世界展開している。オリジナルアニメ映画『ポッピンQ』を作るなどチャレンジを続けている」

「東映本体によるアニメ展開にも力を入れるため、22年7月にアニメ開発室を立ち上げた。東映アニメの作品は下の年齢層に強い傾向にあるが、開発室では上の年齢層も狙える作品を作り視聴者を広げたい」

実写について「アニメにはない生身の熱気を伝えたい」と話す手塚治社長

――ワンピースが大ヒットしました。22年の国内興行収入は9月末時点で220億円に達し、09年の179億円という過去最高記録を塗り替えましたね。

「(ワンピースは)急に当たっているわけではなく、非常に緻密な積み上げの中で数字を出している。製作委員会各社が連携し、主題歌を歌うAdoや映画監督、原作の編集者などのメディア露出を増やした。楽曲の展開も工夫し、多額の制作費をかけて作ったミュージッククリップを公開前から配信した。『紅白』などの年末の音楽特番でも楽曲を披露してさらに興行収入を積み上げたい」

――ただ、ヒット作がアニメに偏っていますね。

「我々としては実写映画を当てたいという思いは強い。木村拓哉さんが織田信長、綾瀬はるかさんが濃姫を演じる『レジェンド&バタフライ』(来年1月公開)は数字を出していきたい。実写のヒットの方程式は分からないが、アニメと違うのは生身の熱気があることだ。例えば『科捜研の女』では主演の沢口靖子さんが撮影前に自宅の電気を止めて京都の撮影所に来る。自宅に戻ると『榊マリコがほどけちゃう』と。そういう熱がスタッフに伝わり、よい作品が生まれる。我々はその熱を視聴者に伝えなければならない」

――成長投資への考え方を教えてください。

「東京と京都の撮影所に投資し進化させる。現実の被写体と仮想空間の背景を組み合わせて映像を撮影できる設備を東京撮影所(東京・練馬)に新設し、来年1月から運用を始める。同一場面の撮影の際にセットを組み立てる必要がなくなり、スタジオの稼働率を高められる。同分野には今後5年間で約20億円を投じる計画だ」

「不動産の再開発にも投資する。もともと東映の映画館だった地方のビルを商業ビルにして運用しているが、開業してから年数がたっている。どこから着手するかは未定だが、建て替えを検討したい。東映本社(東京・中央)も再開発の候補だ」

――東映アニメとの親子上場を解消する意向はありますか。

「東映は映画配給と実写の製作、東映アニメはアニメの製作を担っている。グループとしてちょうどよい関係になっており、基本的には現状を維持する」

想定内の最高益、株価に響かず

東映の2023年3月期の連結純利益は前期比78%増の160億円と過去最高を大幅に更新する見通し。自己資本利益率(ROE)は前期の5%から8%に高まる見込みで、東宝とほぼ同水準に並ぶ。ただ足元の株価は2万円を割り込んでおり、21年5月に付けた2万5180円の上場来高値からはほど遠い。なぜなのか。

株式市場は作品のヒットを先取りする傾向が強い。実際、東映株が上場来高値を付けたタイミングは、33.57%出資する関係会社の東映アニメーションが「SLAM DUNK」や「ドラゴンボール超」といった人気アニメ作品の製作に入ると発表した後だった。

今期の公開作はワンピースに加えて、この2つの大作が並ぶ強力ラインアップ。市場関係者からは「最高益の更新は分かっていた」との声が上がる。野村証券の三木成人リサーチアナリストは「例年12月~2月ごろに新作の製作発表会が開催される傾向があることを踏まえると、株式市場の目線は24年3月期に移る局面だ」と話す。

では、現時点で分かっている今後のラインアップはどのようなものなのか。来期はハリウッド版「聖闘士星矢」や「翔んで埼玉PartII(仮題)」など有力な実写作品が公開予定だ。三木氏は「両作品ともに興行収入30億~40億円程度とみている。24年3月期の全体の興行収入は140億円と、23年3月期の375億円には及ばないが高水準を予想する」とする。

稼ぎ頭である東映アニメの動向も注目だ。同社はアニメ作品の製作に加えてゲーム化版権販売などを手掛けており、業績は絶好調。23年3月期の連結純利益は180億円と5期前の18年3月期から100億円以上積み増す見通し。

もっとも中長期の事業成長には、本体の収益力を高める必要がある。撮影設備への投資の成否はその試金石になりそうだ。実写作品で継続的にヒットを飛ばす体制を築けるか、手塚社長体制のかじ取りが問われる。
(佐藤諒)