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東急「脱・鉄道」、コロナで加速 渋谷再開発に傾注

同事業の2023年3月期の営業利益が全体に占める割合は8割と新型コロナウイルス禍前の4割から上昇する見通しだ。鉄道事業の利益回復が遅れる一方、東京・渋谷の再開発など不動産事業が底堅く推移する。社名から「電鉄」を外して3年、コロナを機に「脱・鉄道」の構造転換が加速している。

東京・渋谷駅に直結する東急百貨店東横店の解体工事が進む。跡地には複合施設「渋谷スクランブルスクエア」の別棟が27年度に開業する。近隣に複合施設「渋谷ヒカリエ」を12年に開業して以来、東急が進めてきた渋谷再開発が終盤に入る。

渋谷再開発は東急の最大の成長戦略だ。30年度までに不動産関連で累計4500億円を投資する計画で、今期のEBITDA(利払い・税引き・償却前利益)の約3倍に当たる。駅周辺の建物を回遊しやすくし、利用者の滞在時間を長くする。「鉄道を絡めながら街との連動性を持たせた開発ができる。大きなアドバンテージだ」。高橋俊之専務は強調する。

東京急行電鉄が社名から「電鉄」を外し、鉄道事業を分社化して不動産事業を主体とする事業持ち株会社となって3年。名実ともに不動産事業へのシフトが加速している。

19年には駅や商業施設、公園が一体となった複合エリア「南町田グランベリーパーク」(東京都町田市)を開業。今後は沿線各地で「住む、働く、遊ぶの機能を兼ね備えた自律分散型の街づくりを進めていく」(高橋専務)考えだ。

今期は不動産事業が連結営業利益(400億円)の8割を稼ぐ見込み。以前は不動産事業と鉄道を中心とする「交通事業」で3~4割ずつ稼いでいたが、コロナ禍が直撃。交通事業の今期の営業利益は11億円とコロナ前(290億円)を大きく下回る。在宅勤務の定着で定期収入が低迷しており、交通事業は来期も204億円とコロナ前の水準に当面戻らないと見る。

東急の不動産事業は私鉄大手のなかでも頭一つ抜きんでている。同事業の22年3月期の営業利益は唯一、400億円を超えた。関東勢では2位の西武ホールディングスに2倍以上の差を付けて1強の状態だ。同事業の営業利益率も20%と阪急阪神ホールディングス近鉄グループホールディングスなどよりも高く、不動産事業主体への構造転換が進んでいる。

不動産事業は当面、業績をけん引しそうだ。

東急が12年度以降に渋谷で開発したオフィスや商業施設などの延べ床面積は約48万平方メートルで、27年度には1.5倍の約74万平方メートルに拡大する。同社の手がける不動産賃貸の営業利益は23年3月期の178億円の見通しから、JPモルガン証券の姫野良太シニアアナリストは「220億円規模に到達する」と試算する。建て替えが濃厚な「SHIBUYA109」など再開発案件が今後増えれば、一段の上振れが見込める。

ただ不動産大手と比べれば、稼ぐ力は中堅規模だ。不動産会社にとって重要な収益源である賃貸不動産について調べたところ、東急が貸借対照表に計上する賃貸等不動産の22年3月期の期末時価は1兆円と、6兆~8兆円弱の三菱地所住友不動産三井不動産を下回る。賃貸利益も420億円と3社(1200億~1700億円)の3分の1以下だ。

賃貸等不動産の期末時価に対する賃貸利益の比率こそ3.9%と財閥系3社の2%台より高く優良物件が多いことをうかがわせるが、資産、利益規模とも見劣りするのは否めない。不動産事業は規模が大きいほど有利とされる。

さらなる成長を目指すうえで焦点となるのは、15.9%出資する東急不動産ホールディングスとの関係だ。

1953年に東京急行電鉄の不動産部門が分離してできた東急不は東急と同じく渋谷を地盤とする。渋谷再開発では両社が「連携しており、足の引っ張り合いは起きていない」(高橋専務)というが、かねて「似たブランドが同じ街に混在して分かりにくく、統一した方がグループとしての強みが出る」(国内証券アナリスト)との指摘が聞かれる。

東急と東急不を単純合算すれば、賃貸等不動産の前期末時価は2兆円、賃貸利益は660億円に増える。キャッシュフロー(現金収支)が増えて投資余力が高まる。相乗効果の乏しい開発案件やM&A(合併・買収)に投資するよりも魅力的だ。

東急は2000年代以降、グループ再編を加速してきた。かつて東急百貨店、東急観光、東急車両製造など多くのグループ会社が上場していたが、完全子会社化したり外部に売却したりしてきた。23年1月にも東急レクリエーションを完全子会社化する。最後に残った大物が東急不だ。東急不との統合を再検討する余地は大いにある。