小島秀夫監督「ゲーム作り、メタバースにない価値提供」

世界的ゲームクリエーターで「監督」の愛称で知られる小島秀夫氏(59)。2015年に独立スタジオ「コジマプロダクション」を設立し代表に就任した。「デス・ストランディング(DS)」はプレーヤーが1000万人を突破した。オフィスも拡張し、次回作の制作を本格化させている。不確実な時代のエンターテインメントのあり方を聞いた。

 

――「ポスト・コロナ」の世界をどう見ていますか

「違和感を覚えています。新型コロナウイルスの大流行が起きて、離れた人とのリモートワークが始まりました。すべてをメタバース(仮想空間)とかデジタルで済ませる方向に、世界が猛烈な勢いで流れています。その生活が3年間も続いて『これはちょっと違うな』という感覚が出てきました」

「人間には移動が必要です。点から点に飛ぶのではなく、点から点に向かう間こそが重要です。メタバースは便利で否定はしませんが、新しい風景や人との出会いがほとんどない。メタバースがあれば人間は宇宙に飛び出す必要もなくなる。でも、未知の世界に到達する間の経験や学習が重要なはずです。こうした発想を今後のゲーム作りに反映させていこうと思います」

コロナ禍でエンタメが一変

――コロナ禍はエンターテインメントにどのような影響をもたらしますか。

「12月に発表した『DS2』はコロナ前に完成していたシナリオをすべて書き直しました。19年発売の『DS』は世界の分断や孤立がテーマでした。フィクションであってほしかったのですが、コロナ禍により分断と孤立がリアルに現れてしまった」

「起きてしまったことをなかったことにはできませんし、無視もできない。01年の『9.11』(同時多発テロ)もそうでした。あの事件を境に、映画が描くテロは変わりました。映画でも小説でも、クリエーターはコロナ禍を体験して書き直しを迫られているでしょう。コロナでエンタメは一変したのです。人々の生活や日常が変わったのですから」

「世界情勢は私の人生で最も危機的です。戦争が起き、資本主義が揺らぎ、環境破壊も深刻です。冷戦時代は核の脅威が叫ばれましたが、現代の方がより危機意識を感じます。『戦争になったらこうなるよ』を描くからエンタメになるのに、現実に起きてしまっています。クリエーターには難しい時代です」

――エンタメの役割とはなんでしょうか。

「エンタメの力はなくなりません。1995年の阪神大震災を神戸で体験しました。漫画『AKIRA』の最終回みたいに崩壊したがれきの街で、子どもがゲームボーイに夢中になっていた光景を鮮明に覚えています。若い人たちに『夢を持て』と言っても容易には持てない時代かもしれません。それでも、悩んでいる人、落ち込んでいる人をゲームを作って励ましたいと思っています」

「僕自身もそうです。子どものころ、家族や友達、先生にも言えない悩みから音楽や小説、漫画が救ってくれました。さらに人生のヒントをもらい、背中を押してもくれました。親は『勉強しなさい』と怒りますが、実は『遊び』も勉強です」

――ゲーム開発の大型化が進んでいます。

「1つのタイトルを200~300人で作るのが一般的で、3000人を超える場合もあります。その結果、ゲーム開発は制作作業の細分化が進みました。個々のクリエーターは割り当てられたパーツを作り込むだけで、いつまでも全体像を把握できません。同じ担当を長年続けてその道の専門職にはなれますが、それではゲームは作れません」

「僕の若手時代はすべて自分でやっていました。取扱説明書を書いて、完成後は電気店で『これが新作です』と呼び込みもしました。だからこそ、ゲーム作りの全体構造を学べました。レストランで言えば厨房とホールが同じで、料理を食べたお客さんの反応がわかる。結局、大事なのは遊んだ人が喜ぶかどうか。全体構造を学べない環境で何年働いたって独立はできません」

「その対極にインディーがあります。わずか5、6人のチームで制作するから全体が見えます。かつてインディーには創作物を届ける手段がありませんでしたが、今はネットで自由に発表できます。この環境を使わない手はない。本当に羨ましいです。いま自分が20代に戻れば、インディーでの活動を選びます」

2022年12月、PS5向けに「DEATH STRANDING2」の制作を発表した©2022 Kojima Productions Co., Ltd/HIDEO KOJIMA

ゲームと映画、ストリーミングで融合進む

――ゲーム機のプラットフォームの垣根が崩れ、同じゲームを遊べるようになりました。DSも複数のプラットフォームで発売し、プレーヤーは1000万人を突破しています。

「映画産業で起きたように、ストリーミングサービスの登場でゲームはさらに変わります。例えば、『ネットフリックス』はどんなデバイスで見てもいい。ゲームも同じでスマホで遊んでもいいし、パソコンで遊んでもいい。今のストリーミングゲームは技術的な課題がありますが、『ユーチューブ』も10年前は画質の粗さが残っていました。でも、今はきれいですよね」

「ストリーミングになれば、その後は映画とゲームが1つのデバイスを奪い合うライバルになります。教育コンテンツも同じデバイスで見るライバルです。ライバルですが、同時に融合が進みます。そのとき、映画でもゲームでもない新しいエンタメが生まれます。非常に面白い時代がやってきます」

人材獲得は作品への共感で

――2015年12月のコジプロ設立から7年がたちました。

「7年と思うと焦ります。コロナ禍の3年間は時間が止まっていた感覚です。19年に『DS』を発売して、次に進もうとした矢先の感染流行でした」

「22年12月に公開したDS2の映像には『KOJIMA PRODUCTIONS』のクレジットが入っています。クレジットに他の会社名ではなく、自分たちの名前を入れることが重要です。自分たちのIP(知的財産)ですから漫画、アニメ、グッズに広げられます。コロナ禍で頓挫していた映画化も決まりました。これが我々の目指していたことで、コジプロは第2ブースターを点火したところです」

コジマプロダクション内の3Dモデルを撮影するスタジオ

――東京のオフィスを約3倍に増床しました。優秀なゲームクリエーターは奪い合いになっています。

「今のスタッフは約170人で、ここから200人規模までは増やします。設備の充実は必要ですが、それだけで海外との勝負は難しい。向こうは映画館や託児所を併設し、専属シェフを雇ってもいます。ただ、重要なのは入れ物ではなく、何を作るか。僕らの作品に共感する人に集まってほしいです」

「300人、400人と雇って、制作ラインを増やす考えはありません。お金稼ぎが目的ではないのです。1000万本、2000万本売れるゲームよりも、10年後、20年後もみんなの記憶にあるゲームを作りたいのです。たとえユーザーが3000万人を超えても、どのようなゲームか誰も覚えていないケースも多くあります。貴重な時間をそうしたゲームの制作に費やすなら引退します」

――中途入社だけでなく、新卒の採用も進めています。

「専門職の中途入社と違って、新卒はフラットな目線でどの能力を伸ばそうかと考えながら配置します。新卒入社への期待は高いです。一方、中途入社の選考では、実績作りのためにわずかな期間だけコジプロに在籍し、短期間で他社への転職を狙うクリエーターに注意しています。これまでの制作経験などを確認して見極めています」

「最近はグローバルで戦うため外国人クリエーターも多く採用しています。採用段階では日本語能力を問わないようにしました。入社後に言葉のサポートが必要になるので、通訳や通ってもらう語学学校の準備を検討しています。多様な人材を迎え入れるための環境整備は大変ですが、そこまでやらないと勝てない世界になっています」

究極のゲームは「朝ドラ」型

――これから、どのようなゲームを作っていきますか。

「(完成品である)フルゲームだけに集中するのはやめようと考えています。最近は企画してから発売まで4年以上かかります。でも開発中にコロナ禍のような不測の事態が起きてしまったら、企画内容が時代にそぐわなくなる。だから例えば1話ずつ配信して、ユーザーの反応を見ながら続きを制作していくやり方も考え始めています」

「1本のゲームを遊び終えるのに数十時間かかります。かつては遊び尽くすのに時間がかかるゲームほど人気も高かった。でも、もうそのような時代ではないですね。今のユーザーは映画を1.5倍速などで見ますから、数十時間も遊んでいられない。そうであれば、もっと短く遊べる作品にして、人気が出れば続けていける仕組みがいい」

「究極形はNHKの朝ドラです。1話15分を毎日見る。合わない人は途中でやめられ、最後まで見たら合計数十時間を費やしていて、まるで長編ドラマになっている。この形式なら企画から発売まで素早く動けますし、時代の変化に応じて登場人物を入れ替えたり、物語の方向を変えたりできるでしょう。お金も少しずつ回収できるから、経営上のリスクも減らせます」

小島秀夫氏は「日本人クリエーターとして何を表現するかが重要」と語る

「2000年ごろからゲーム業界で日本の存在感が薄くなっていきました。ただ、22年12月に世界有数の表彰式典『ゲームアワード』でフロム・ソフトウェアの『エルデンリング』が最優秀作品に選ばれたように、日本のゲームにはまだ可能性があります」

「日本人はゲーム作りに適しています。レストランでも丁寧にお客様をサポートしますよね。ゲームを気持ちよく遊んでもらうには、遊び手に悟られず、行き詰まったり、道に迷ったりしないようにサポートします。サービス業に近く、日本人の良い部分が生かせるのです」

「重要なことは意識をグローバルに合わせながら、日本人クリエーターとして何を表現するかです。例えば、操作感は世界標準に合わせるべきです。自動車では右ハンドルを作ってしまいがちですが、海外で左ハンドルが多いならそちらに合わせなければいけない。右ハンドルにこだわるのではなく、窓の向こうにどのような景色を見せるか。そこに日本人の感覚や精神性を生かしていきたいです」

ゲーム制作者の地位向上担う

 12月、コジプロは増員に併せ、オフィスを約3倍の4900平方㍍に増床した。ビルの1フロアを丸々借り、レコーディングスタジオや出演俳優の控室までそろえた。

 「ひとまず月には到着したので、これから火星や木星に向かう計画です」。小島秀夫監督は独特な例えでコジプロの現在地を表現する。2019年発売の「DS」が大ヒット。続編「DS2」の制作に加え、念願の映画化も決まった。重厚なストーリーに魅力的なキャラクターを配したゲームが音楽や映画、小説、グッズに派生することは、コナミ時代の代表作「メタルギア」で証明済みだ。

 コジプロでは「プレイステーション」向けのDS2に加え、米マイクロソフトの「Xbox」向けの独占作品も制作が進む。コナミの同僚3人と質素なオフィスで始めた挑戦は8年目にして転換点を迎えている。

 ゲーム業界では大手所属の看板クリエーターの独立がたびたび起きる。21年もセガで「龍が如く」を生んだ名越稔洋氏が退社した。ただ、大手出身でかつての大型作品に匹敵する人気作を創れる事例は少ない。独立後の第1作が世界で1000万人に親しまれる小島監督は際立つ存在だ。

 近年のゲーム開発はハリウッド映画をも超える巨大プロジェクトだ。「AAA」と呼ぶ大型作品の開発費用は100億円超えも当たり前。エンジニアなど数百人規模が集まり、開発期間は4~5年に及ぶ。ゲームは映像、音楽、物語を操作できる形に統合した「総合芸術」との見方もある。

 映画やアニメなど他の芸術分野に比べてゲームクリエーターの認知度は低く、「所詮はゲーム」の偏見も根強い。地位向上には面白さの追求だけでなく、国際情勢や社会課題をも作品に落とし込めるフロントランナーの情報発信が不可欠。小島監督に注目が集まるゆえんだ。

(新田祐司)