米マイクロソフトはつくりたい内容を文章で入力すると自動でプログラムを組む機能を開発し、米セールスフォースは人工知能(AI)の機能を簡単につくれるようにした。花王やLIXILは原料などの管理アプリを内製するなど、企業導入は約4割にのぼっている。
「学生時代の専攻が化学でIT(情報技術)の知識はほとんどなかったが、アプリを開発できた」。花王で洗剤などの生産に使う原材料を管理するスマートフォン向けアプリを内製した渋谷遼氏は強調する。

開発にはマイクロソフトのローコードツール「パワーアップス」を使った。化学品など300以上の原材料は工場内の紙のカードで管理していた。アプリ導入でスマホで簡単に入力や表示ができるようになり、年間で約480時間の作業を短縮した。開発期間は3週間とシステム会社に委託するコストを抑えた。
パワーアップスはトヨタ自動車も導入し、7000人以上が2万を超えるアプリを開発した。一例が工場作業者の仕事の進捗状況を管理するアプリだ。それぞれの作業者がどこで、どのような設備保全をしているのかをスマホで入力すると、本部のモニターにリアルタイムで表示される。
ローコードの企業導入が進む中、機能も進化している。
マイクロソフトは11月には業務自動化ソフト「パワーオートメート」にコマンド部分に人が話し言葉で実現したい操作を文字で入力すると自動でプログラムを組める機能を試験導入した。AIを通じ、入力した文章をもとに、チャットの「チームズ」やアンケート作成ツール「フォームズ」といった自社アプリの自動化を進められる。
例えば「消費者がフォームズを通じアンケート回答をしたら、担当者のチームズとメールに自動で通知する」と入力しておくだけで、自動化の手順の大枠が決まり、詳細設定をタブなどから選べば作成が完成する。
この機能にはマイクロソフトが提携する米オープンAIの言語AI「GPT-3」を使っている。文章入力による直感的な操作が可能になり、自動化ソフト作成のハードルが一段と下がる。

企業向けのクラウドソフトを得意とするセールスフォースはAIを簡単につくれるサービスを始めた。
パソコンであらかじめ学習させたい画像をソフトに積んでおくだけで、学習データに基づきAIの機能ができあがる。
例えばレンタカー事業者の場合、前後部のバンパーや窓、サイドミラーといった部位ごとに正常な状態の画像と傷がある画像をそれぞれ複数枚登録しておくと、部品の状態を判別できるAIの機能を自動で構築できる。
セールスフォースはAIを含めた様々なローコードツールを企業に提供しており、米フォードはローコードで開発した保守管理アプリを中小企業に外販する。顧客情報をアプリで一括管理でき、営業担当が現場で修理の予定を立てたり、請求書を送ったりすると、社内でスケジュールを組み立てて内容を共有できる。

LIXILは米グーグルのローコードツール「アップシート」を活用している。住宅向けタイルの製造で使うインクの残量を管理するアプリを開発した。開発担当者は「入社までプログラミングの知識はなかったが、ネットなどを参考に1週間でつくった」と話す。残量を適切に管理できるようになったことで、使用期限切れに伴うインクの廃棄をそれまでの3分の1程度まで減らした。
IDCジャパンによると、国内の企業や官公庁など約500社のローコードなどの導入比率は21年には37.7%と20年から4.4倍になった。23年には新規開発されるアプリの6割がローコードなどによるものになると予測されている。9月には日本企業のデジタル化の実現を目指す推進協会が発足し、活用の機運が一段と高まる。
ソフト内製の動きが広がるのはデジタルトランスフォーメーション(DX)を進める企業の需要に対し、エンジニアの育成が追いついていないためだ。経済産業省は30年に日本で最大79万人のIT人材が不足すると予測する。現場の課題を解決するアイデアを社内外のエンジニアに頼まなくても自ら形にできる。

ローコードは当初、アプリやウェブサイトを幅広くつくれるものから始まったが、ネット通販サイトの開設を支援するBASEやカナダのショッピファイのように特定の用途に特化するツールも広がりつつある。最近はあらゆるモノがネットにつながるIoTなど先端テクノロジーが使えるローコードも登場した。
ソフト開発のアステリアはセンサーやカメラといったIoT機器で収集したデータの活用に特化したローコードツールを提供する。温湿度を検知するセンサーの測定結果をもとに、自動でグラフを作成することなどが可能になる。
ローコードを活用する上では課題もある。ソフト開発のドリーム・アーツ(東京・渋谷)がIT部門に所属していない現場の担当者が開発を手掛ける課題を調べたところ、「業務負荷がかかる」と並び、「品質がばらつく」や「システムの乱立」といった回答が上位に挙がった。一方で、アプリの乱立防止の対策を立てているのは55%にとどまった。
ガートナージャパンの片山治利アナリストは「エンジニアでなくてもソフトを開発できる環境はそろったが、特定の部署しか使えない属人的なアプリになることもある」と指摘する。企業は各現場でソフト内製を進める一方で、会社全体のDXやシステムの設計をどう進めていくかという視点も欠かせない。
(大越優樹、高崎文)
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