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香港不動産仲介に冬の時代 リストラの波、中小淘汰も

中原地産は従業員を3割減らす方針で、大手各社の人員削減規模は計3千人を超える見通し。住宅取引が歴史的な低水準に落ち込み、コスト削減を迫られた。金利上昇や海外移住、中国マネーの流入減が価格下落に拍車をかける。右肩上がりの市況を前提にした仲介業界は転機を迎え、中小の再編や淘汰につながる可能性がある。

「家の購入、来年以降に」

「家を買おうと思っていたけど来年以降に延期した」。香港の30代女性は金利の上昇や先行き不透明な市場動向を踏まえて、計画を見直した。住宅購入資金は高金利の3カ月物定期預金に預けたという。

九竜地区で4日に売り出された新築マンション「朗譽」は128室のうち、わずか11室しか成約していない。仲介大手、美聯物業の住宅部門トップ、布少明氏は「世界経済の低迷や株式市場の調整で様子見の人が増えている」と話す。

政府が算出する住宅価格指数は10月まで9カ月連続で前年同月比マイナスだった。2021年末に比べ11%下げ、通年の下落率は15%前後に達する見込みだ。新築住宅の販売件数は1万件あまりと、9年ぶりの低水準に沈む。

香港の通貨、香港ドルは米ドルと連動するため、市場金利は米金利と同じ方向に動きやすい。米利上げを受けて住宅ローン金利の指標となる香港銀行間取引金利(HIBOR)や最優遇貸出金利(プライムレート)が上昇。景気が低迷する中で、住宅取得に二の足を踏む人が増えている。

世帯流出、高級市場も不調

要因は金利上昇だけではない。香港国家安全維持法(国安法)施行など政治情勢の激変を受け、子育て世帯などが海外に流出。労働人口はこの2年で10万人あまり減った。損失覚悟で持ち家を手放す人も多く、中古住宅の値崩れを招いている。

不動産仲介会社の店頭には値引き広告が並ぶ(12月、香港)

「ゼロコロナ」政策で中国本土との往来が3年近く制限され、中国富裕層に支えられていた高級住宅市場も不調だ。不動産サービス大手JLLによると、22年の2千万香港ドル(約3億4千万円)以上の物件の取引は前年比65%減った。

中原地産の住宅部門トップの陳永傑氏は「取引量が50%以上落ち込み、従業員の90%が販売目標を達成できていない」と語る。同社は22年初に約6200人いた従業員の3割を削減する方針だ。既に従業員1千人と30店舗を削減しており、さらに600~800人の退職を見込む。

主要各社の削減3000人超

美聯物業も8月以降、700人が流出した。香港置業などを含む主要仲介会社のリストラは3千人以上となる見通しだ。

美聯物業を傘下に持つ美聯集団の22年1~6月期決算は売上高が前年同期の半分に落ち込み、最終赤字に転落した。人件費や店舗の固定費を削って生き残りをめざす。

大手各社が苦闘する状況で、中小の事業者には淘汰の足音が忍び寄る。これまでは不動産価格が下がっても豊富な取引件数を背景に事業を運営できた。しかし、不動産規制当局によると、香港の不動産仲介を手掛ける代理人は約4万1千人に上る。11月の取引件数から計算すると11人が1案件を争う構図で、競争は消耗戦に突入しつつある。

分かれる先行きの見方

先行きの見方は分かれている。シティバンクが香港市民向けに9月に実施した調査によると、今後12カ月で住宅価格が下落するとの回答が51%に及んだ。様子見ムードを受けて、仏投資銀行ナティクシスは住宅価格が23年に12%、24年に2%それぞれ下落するとみる。

一方、米利上げ幅の縮小や、中国によるゼロコロナ政策の見直しといった明るい材料もある。米モルガン・スタンレーは金利のピークアウトやコロナ規制緩和を背景に住宅価格が23年4~6月期に底を打ち、23年通年では5%上昇すると見込む。

仲介大手、利嘉閣地産の廖偉強総裁は12月、香港紙への寄稿で「(市場が低迷する)現在の状況は終わりに近づいている。不動産市場全体としては健全だ」と述べた。同社は市況が回復すれば従業員の再雇用も検討する。

賃料、世界一から陥落
 香港経済の低迷を受けてオフィスや商業不動産の賃料も下落している。JLLによると、2022年末のオフィス空室率は11.6%と21年末の9.4%から悪化する見通し。金融街・中環(セントラル)の賃料は2019年のピークと比べて31%下がった。
 香港政府の調査によると、6月時点で香港に拠点を置く域外企業は8978社と前年比71社(0.8%)減った。政治情勢やコロナ規制を受けて香港の位置づけを見直す企業も多く、地域統括本部を置く米国企業は240社と、20年ぶりの低い水準だ。ある不動産コンサルタントは「外資系企業がオフィスのスペースを削減する動きが目立つ」と話す。
 観光客が激減し、ブランド店などの賃料も下がっている。米不動産サービス大手クッシュマン・アンド・ウェイクフィールドが11月にまとめた世界の目抜き通りの賃料ランキングで、香港は世界トップの座をニューヨーク5番街に譲った。繁華街・尖沙咀(チムサーチョイ)や銅鑼湾(コーズウェイベイ)の賃料はコロナ禍前に比べて4~5割低い水準だ。