2023年度からは仮想通貨・トークン発行企業の自社保有分については課税の対象外とする。仮想通貨・トークンを発行する企業が海外に流出することを防ぐ狙いがある。
自民、公明両党がまとめた23年度与党税制改正大綱に盛り込まれた。保有しているだけで期末に時価評価で課税する日本の仮想通貨税制は世界でも珍しい。
課税負担を嫌い、仮想通貨・トークンを発行する企業が日本から海外に流出した。行き先はシンガポールが多いが、ドバイやスイスもある。この状態を解消しようと、金融庁や業界団体などが税制改正を要望してきた。
例えば、ブロックチェーン上で発行するトークンには株式のように議決権があり、価格も時価で決まる。市場で100億円の価格がついて、その6割を保有する場合は60億円に法人税が課されてきた。法人税率が3割なら18億円と負担が重い。発行当初は発行企業の保有分が大きく、事業の拡大につれて投資家分が増えるケースが多い。
今回の見直しでは、自社が発行する仮想通貨を保有する場合について発行時から継続保有、譲渡制限があるなどの条件を満たせば、時価評価課税の対象から外す。
ただ、投資家やサービス利用者などが保有する仮想通貨・トークンへの時価評価課税は現行のまま残る。国内の投資家は簿価評価を前提とする海外投資家と比べて引き続き不利な競争環境に置かれる。
税制改正大綱の中身についてシンガポールで株式・トークンを通じた出資をするアリーバスタジオの佐藤崇最高経営責任者(CEO)は「トークンの課税見直しを早急に行わないとトークン発行を事業戦略の基本に据えるブロックチェーンビジネスは日本で空洞化する」と懸念する。
次世代インターネットといわれるWeb(ウェブ)3の振興を目指す自民党のウェブ3プロジェクトチーム(座長・平将明衆院議員)は15日に公表した提言で「ブロックチェーン技術のもたらす変革の波に乗り遅れることは、日本の経済成長の大きなリスク要因」と述べた。24年度以降の税制改正では、トークン発行企業が発行するトークンを短期売買せずに保有する場合には期末の時価評価課税の対象外にするよう働きかける方針だ。
大手仮想通貨交換業者FTXトレーディングの破綻で、仮想通貨ビジネスには逆風が吹く。海外に逃げたブロックチェーン企業が日本に戻れるくらいの税制改正の果実を得るためには、政府の支援だけでなくブロックチェーン事業者が利便性の高い社会インフラを実現できることを具体的に国民に伝えていく必要がありそうだ。
(フィンテックエディター 関口慶太)
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