日本の2023年度予算案は一般会計で114兆円と過去最大になった。内実は社会保障費や国債費などの膨張が大きく、他の政策的経費は3割にとどまる。税収も過去最高ながら、他の主要先進国と比べると増加は鈍い。成長につながる支出が乏しいために税収が伸び悩み、財政が硬直化して成長の余力を失う負の連鎖が浮かんで見える。
岸田文雄首相は予算案を決める前の23日午前、政府と与党の会合で「日本の未来を切り開くための予算だ」と強調した。目玉に挙げた脱炭素の取り組みは特別会計で0.5兆円を計上した。こうした使い道は全体のごくわずかだ。
財政運営が硬直化する根本の要因は経済の低迷だ。国際通貨基金(IMF)によると日本の過去20年間の平均成長率は0.6%。米国(1.9%)や英国(1.5%)、ドイツ(1.1%)に及ばない。
この間、税収や社会保険料などの政府収入は米国が2.6倍、英国が2.3倍、ドイツが1.8倍に増えたのに対し、日本は1.3倍どまり。23年度は税収が過去最高の69兆円に達すると見積もるが、国際的に見れば伸びは鈍い。
ただでさえ乏しい税財源を成長策に振り向けることもできなくなっている。負担と給付のバランスの見直しが遅れる社会保障費、借金返済の国債費、自治体に配る地方交付税。この3項目だけで80兆円に迫り、歳出の7割弱を占める。この割合は80年度の5割弱から大きく高まっている。
企業にたとえるなら利益を生まない経費ばかり増え、成長投資の余力が細っているような状態だ。無駄なコストを抑えて新たな収益源の開拓にお金を回さなければ、人件費さえまかなえなくなる。
欧米は戦略的だ。米国は22~26年度、インフラ投資・雇用法で総額5500億ドル(72兆円超)を投じる。欧州連合(EU)も50年の脱炭素へ、21~27年に総額5030億ユーロ(70兆円超)を投資する。
中長期の視点にたった公的支出は民間企業の投資判断を後押しする。UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメントの青木大樹氏は「日本の競争力を強化するには単年度の予算にとらわれない、長期の戦略投資計画を立てるべきだ」と説く。
成長は財政健全化にも資する。1980年代に財政赤字が膨らんだ米国は90年代のクリントン政権下で赤字が縮小し、一時的には黒字になった。冷戦終結による国防費の減少に加え、景気回復や株価上昇に伴う税収増が寄与した。
日本も借金に頼らない財政運営の目安になる基礎的財政収支の赤字が13年度から19年度にかけて国内総生産(GDP)比で3.0ポイント縮小した。アベノミクスによる景気回復で名目GDPが拡大したのが3.4ポイント分の改善要因で、高齢化などによる2.7ポイントの歳出増(悪化分)を上回った。
成長を促す賢い支出で税収を伸ばし、次の成長投資の財源とする好循環を生み出すには至っていない。10年代を振り返ると、教育や研究開発など未来への投資の水準は米英などに比べ低いままだった。
むしろ経済対策で巨額の補正予算を組む悪弊が定着した。21~22年度の補正で始めたガソリンや電気代の補助などは目先の痛みを和らげるが、将来の成長には貢献しない。本来、こうしたバラマキをする余裕は今の日本にない。
借金頼みの予算編成で23年度も新規国債発行は35兆円超と高止まりする。債務残高のGDP比は264%と主要7カ国(G7)で突出して高い。こうした財政運営も日銀の緩和修正で岐路に立つ。無駄を排し、付加価値を生む人への投資など成長志向の予算へ改革を急ぐ必要がある。
(マクロ経済エディター 松尾洋平)

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