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戸建てに太陽光義務化 東京「国に先行」意識強く 脱炭素の目玉、住宅価格上昇が設置の壁に

東京都は都内で新築する戸建て住宅に対し、2025年4月から太陽光パネル設置を義務付ける。脱炭素を実現する目玉政策と位置づけるが、住宅価格上昇や将来の「廃パネル」の大量発生など課題も多い。かつて国が導入を見送った難題を成功させるには、住民や事業者らの幅広い理解が欠かせない。

「家に屋根が付いているのが当たり前であるように『屋根が発電するのが当たり前』という機運を醸成していきたい」。小池百合子知事は義務化の意義をそう強調する。15日の都議会本会議で関連条例の改正が可決され、25年度の施行に向けた準備が本格化する。

義務化の対象は戸建てを販売する住宅メーカーで、供給棟数の多い上位50社程度を想定している。都内では年間4万~5万戸の新築戸建てが供給されており、試算では半数強が対象となる。「屋根発電」の拡大で都内の発電能力は毎年4万キロワットずつ増強される見通しだ。

都は30年までに温暖化ガス排出量を2000年比で半減させる「カーボンハーフ」を掲げる。家庭由来の温暖化ガスは増加傾向が止まらず、パネル設置の義務化は目標達成への一つのカギとなる。それでも義務化に対する世論は分かれた。

「子どもたちのためにできることは1秒でも早くやってほしい」「売電のメリットを強調しているが、ランニングコストや廃棄費用など負の部分を周知していない」。都が5~6月に募集したパブリックコメントには賛否両論が寄せられ、賛成意見は辛うじて5割を超えた。

国は導入見送り

新築住宅へのパネル設置義務化は政府の有識者会議でも21年に議論されたが、発電効率の地域差などを理由に見送られた経緯がある。国が断念し、世論の賛否も拮抗する難題に挑むのは小池氏、そして都庁固有の事情がある。

小池氏は環境相時代にクールビズを普及させた成功体験がある。都内の自宅にはパネルを設置しており「環境意識はもともと高い」(小池氏に近い都議)。国の有識者会議が21年6月に義務化を事実上見送った直後、同年9月の都議会で検討を突如表明した。

義務化は再選を果たした20年の知事選では公約に掲げていなかった。小池氏周辺は「再選後に国の議論をみて思いついたのではないか」(同)と推測する。築地市場の豊洲移転、東京五輪・パラリンピックなど前任者から引き継いだ課題が一服したのも政策の軸足を脱炭素に移す後押しとなった。

東京都にも環境政策で国に先んじてきた伝統と自負が根付く。代表例が石原慎太郎知事の時代に打ち出したディーゼル車の排ガス規制だ。記者会見で「これが都内の空気を汚している」とすすの入ったペットボトルを振り回す姿は世論に問題の深刻さを印象づけた。

都の幹部は「『国より先にやる』という意識は知事が入れ替わっても受け継がれてきた」と胸を張る。パネル設置の義務化も「事務方と知事の思惑が合致したからこそ踏み込めた」。

住民の理解カギ

「東京が行うことは世界から注目される」と小池氏は気勢を上げるが、義務化が再生可能エネルギーの普及につながるかは不透明だ。太陽光パネル自体は「電気料金の高騰で住宅購入者の関心が高まっている」(中堅住宅メーカー)。一方で地価や資材の値上がりで住宅価格の上昇が続けば、義務化で購入のハードルは一段と高まる。

鳥取県は4月に省エネ住宅の補助要件にパネル設置を加えたところ、申請が急減した。「住宅価格が高騰し、太陽光まで載せるとローンを組めない人が続出した」(県の担当者)。6月には補助要件の緩和を余儀なくされた。

東京都の義務化は中小工務店が対象外のため、事業者間で対応が分かれる可能性もある。東京大学の前真之准教授(建築環境学)は「地元の工務店も進んで参加したくなるよう、支援制度を整えていく必要がある」と指摘する。「屋根発電が当たり前」の実現へ解決すべき課題は多い。

(上月直之)