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[FT]ノルウェー富豪が続々と国外脱出、富裕税に嫌気

経済界からはノルウェーの中道左派政権が課す富裕税に対して懸念の声が上がっている。

 

ノルウェーの住民登録簿への届け出情報によると、2022年に少なくとも30人の富豪が同国を去り、より税金が安いスイスに移住した。漁業や石油事業などを手がけ、ノルウェーの長者番付で首位になったこともある大物実業家のシェル・インゲ・レッケ氏もその一人だ。他にもキプロスやイタリア、カナダに移住した富豪もいた。

富裕層は税制改革でノルウェーの競争力が損なわれると懸念しており、国外脱出はまだ続くだろうと同国租税コンサルタントらは予想する。企業価値10億ドル(約1320億円)の暗号資産(仮想通貨)データ提供会社デューン・アナリティクスの共同創業者フレドリック・ハガ氏(31)もノルウェーからスイスのツークへの転出を正式に届け出るという。

持っていないお金への税金は払えない

「ノルウェーに住み続けるか、それとも会社を成功させるべきかを選ばなければならなかった。税金を払いたくないわけではない。自分が持っていないお金にかかる税金をどうやって払うのかという問題だ」。ハガ氏はフィナンシャル・タイムズ(FT)に語った。

議論の中心は170万ノルウェークローネ(約2200万円)を超える純資産に課される最高税率1.1%の富裕税だ。スイスも富裕税を課しているが、外国人向けの優遇措置がある。

ハガ氏のように資産の大半を会社につぎ込んでいる起業家の場合、このような税制では会社から多額の配当を得るか、株式持ち分の一部を売却するほかなくなる。しかし、デューンは赤字が続いているため同氏は自身に配当を用意できず、かといって急成長中であるため株式を手放すつもりはない。

「会社を売って資金を作るか、移住するかしかない」。ハガ氏は次回の課税額が可処分所得の数倍に上るのではないかと恐れている。

ノルウェーが公開している年間の納税申告書によれば、22年に同国からスイスに移住した富豪の資産額は合計290億クローネ、納税額は合計5億5000万クローネだった。ノルウェーの経済紙ダーゲンス・ナーリングスリーブの集計によると、22年に国外脱出した富豪の人数は過去13年間の合計人数を上回っている。レッケ氏は21年に1億8100万クローネを納税しており、22年9月にスイスのルガノに転出した。同氏にコメントを求めたが、回答は得られなかった。

欧州でも数少ない富裕税課税国

フランスが18年に富裕税を廃止し不動産富裕税に転換したため、今も富裕税を課す欧州の国はごくわずかだ。その一つであるノルウェーの富裕税は、長らく国内富裕層の批判の的になっていた。

ノルウェーのシンクタンク、シビタの租税専門家マティルデ・ファスティング氏は「ノルウェーのビジネスをあらゆる面でゆがめている」と指摘する。「企業オーナーは場合によっては利益より大きな額の配当を会社に要求せざるを得なくなる。企業への投資を控えようと思う人を大幅に増やしてしまう」

富裕税はノルウェー国内の左派と右派を分ける境界線にもなっている。右派は廃止を求める一方、ストーレ首相率いる中道左派政権は22年に富裕税の増税に踏み切り、配当課税を引き上げて事業用資産に対する控除率を引き下げた。

ファスティング氏は、22年に事業用資産に課された富裕税は前年に比べて2倍になった可能性が高く、配当課税は5割近く増加したと指摘する。富豪の国外脱出を防ぐことを目的とした出国税も近く導入される。

ノルウェーは「これまで政治リスクを抱える国とみなされることがなかった」が、今や企業オーナーは「現政権はまだ数年続き、今後さらに状況が悪化する可能性がある」と考えるようになったとファスティング氏は解説する。

政府に非を認めるつもりはなさそうだ。グリムスタ財務副大臣は、政府は個人と企業が豊かになることを望んでいるが、ノルウェーの手厚い福祉制度を維持するため、最上位の富裕層にはより多くの負担を求めたいと述べた。また、国内にはまだ数千人の富豪が居住しており、単位人口あたりの人数では富裕国の中でも多いほうだと指摘した。

「人々は無償教育や国内インフラ、無償の医療、補助金付きの就学前保育、しっかりとした一時解雇ルール、他国の水準に並ぶ法人税の恩恵を受けている。この社会モデルの下で成功を享受するなら、他の人々より多く貢献しなければならない」と同氏は主張した。

「喜んで税金を払う」富裕層も

ノルウェーの富豪全員が脱出しようとしているわけではない。ヘッジファンドの元マネジャーで現在はノルウェー政府年金基金を運用するニコライ・タンゲン氏は、英ロンドンから帰国すると、受け取った給与を6000万クローネも上回る税金を納めなければならなかった。「私は喜んで税金を払う。個人的には納めた税金よりはるかに多くのものを受け取っていると思うからだ」と同氏は話す。

自動倉庫システムを開発するオートストアの最高経営責任者(CEO)で、21年の納税額が国内9位だったカール・ヨハン・リーエル氏は、特にスタートアップ企業の経営者が国外に脱出したがる理由は理解できると話す。「本来は脱出に追い込まれるべきではなかった人が大勢いる」と述べる一方、自分はその仲間には入らないと付け加えた。「ここには家族も孫もいる。それは税金よりも重要なことだ」

ハガ氏は、声を上げても得るものは乏しいが、起業家や萌芽(ほうが)期にあるノルウェーのスタートアップ業界に警鐘を鳴らしたいと語った。

「ノルウェーはビジネスを立ち上げるのに最悪な場所になりつつある。その原因は富裕税だ」

By Richard Milne