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酒蔵に新たな視点(1)新潟大学日本酒学センター 岸保行氏 日本酒の出荷7割減 異業種や若手、海外に活路

日本国内の酒蔵を取り巻く環境は厳しさが増しています。国税庁によると、2020年度の日本酒の出荷量はピーク時の1973年度と比べ、約7割減りました。酒類の多様化や消費者の高齢化、結婚式などでの日本酒がワインに置き換わるなど、嗜好の変化が影響しています。

 

酒類産業は地域の産業や文化に伝統的に根付き、結びつきが強いことが特徴です。また国からの免許がないと、製造も販売もできません。日本酒は輸出用を除いて原則、製造免許は新規で発行されていません。そのため、新たに日本酒を製造したい企業は既存の酒蔵の買収に動きます。酒蔵の経営者が後継者難で事業を譲り渡し、数百年にわたって親族で経営してきた酒蔵に外部の資本が入ると、事業を革新する転機にもなります。

1767年創業の今代司酒造(新潟市)は2011年、教育を手がけるNSGグループ(同市)に事業を譲渡しました。製品ラベルに新潟名物の「ニシキゴイ」をデザインし、酒蔵見学や法被姿での記念撮影サービスも開始。ニシキゴイは中国人にとって縁起が良く、インバウンド(訪日外国人)向けにヒットして、酒蔵での直販ビジネスが新たな収益の柱になりました。

酒蔵の買い手は同業のほかに化粧品メーカー、不動産など多岐にわたります。買収が相次ぐのは酒造の免許が手に入るだけでなく、海外需要の伸びも背景にあります。財務省によると、日本酒の21年の輸出総額は401億円で、11年から4.6倍に拡大しました。

欧米では食事と酒の相性を指す「マリアージュ」や、酒造りの土地の物語性を意味する「テロワール」といったワインでの考え方を日本酒に応用する動きがあり、需要が増えています。今後はインバウンドの回復も予想され、外国人向けビジネスの展開の幅は広がりそうです。

親族間での事業承継でも、若手の跡継ぎが事業を変革するケースがあります。海外のトレンドなどに敏感で、輸出の新たな戦略を練る経営者もいます。

第三者でも親族間でも、事業承継で成功するポイントとして、現場の杜氏(とうじ)の酒造りの考え方を理解することが重要です。さらに環境の変化を見極め、経営スタイルを柔軟に変える力も必要です。今後の経営者には酒造りを知るとともに、国内外の市場を開拓する最新のマーケティング戦略を学び、事業の収益を分析できる知識も求められます。

後継者不足で酒蔵が廃業すると、地域の伝統産業や文化を弱めることにもつながります。観光産業などの地域の大きな損失になるため、普段から付き合いのある地域金融機関や地元の関連企業などに事業承継を相談しておくことも一つの手です。