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人気ゲーム「Fortnite(フォートナイト)」を運営する米エピックゲームズに対し、米連邦取引委員会(FTC)は19日、5億2000万ドル(約710億円)の制裁金を科すと発表した。

子どもの個人情報を保護者の同意を得ず収集したり、意図しない課金を促したりする仕組みが問題視された。消費者を不利な決定に誘導する「ダークパターン」は各国で規制が進んでいる。米アマゾン・ドット・コムやヤフーなど表示手法を見直す動きも出てきた。

「気づいたら購入していた。ダークパターンにはまってしまった」。データ管理のコンサルティングを手掛けるデータサイン(東京・港)の太田祐一社長は、フォートナイトで気になるアイテムの「詳細」を見ようと操作して誤って購入した経験がある。巧みな課金への誘導は、専門家の目もすり抜ける。

ダークパターンとは企業が利益やデータ収集のため、顧客側が気づかないように行動を誘導するネットマーケティングの手法だ。電子商取引(EC)サイトやサブスクリプション(定額課金)サービスで主に使われている。

米プリンストン大学は1万1千以上のECサイトを分析し7種類に分類した。今回エピックが指摘された気づかれにくい形の課金のほか、有料会員の解約方法を複雑にしてやめにくくしたり、データ収集やメールマガジン配信の設定にひそかに同意させる手法など多岐にわたる。

FTCによると、今回のエピックの事例はフォートナイトを通じて13歳未満の子どもの個人情報を保護者の同意を得ずに収集し、「児童オンラインプライバシー保護法(COPPA)」に違反した。また無料だと思って子供が遊んでいるうちにアイテムの課金を押してしまったケースが問題になった。

仕組み自体は単純だが、FTCはフォートナイトの仕組みで「消費者は数億ドルを不正に払わされることになった」と指摘した。利用者の意図せぬ支出や個人データ提供は企業にとって利益につながる。特にネット企業は広告の減少や、プライバシー規制強化、巣ごもり消費の一巡に伴うサブスクの解約など厳しい経営環境に直面しており、追加課金による収益確保の重要性が増していることも問題の背景にある。

ダークパターンは違法とまでは言えないグレーなものも多いが、欧米を中心に法規制が進む。米国カリフォルニア州は2021年3月に消費者プライバシー法(CCPA)を見直し、解約時に分かりにくい言葉を使うなど一部のダークパターンを禁じた。欧州連合(EU)も今年4月に合意したデジタルサービス法(DSA)でサービスの解約も加入と同様の簡単な操作でできることなどを求め、違反した場合は世界の売上高の最大6%の罰金を科される可能性がある罰則も設けた。

日本も6月施行の改正特定商取引法で、サブスク契約への悪質な誘導や解約方法の明示について規制が強化されている。

企業も対応を進めている。EUの欧州委員会は7月、アマゾンと会員制サービス「アマゾンプライム」の退会の仕組みをEUの消費者規則に沿ったものに変更する合意に至ったと発表した。退会方法をわかりやすく表示し、退会画面から2回のクリックで操作を完了できる仕組みとなった。同社は21年1月にノルウェー政府系の消費者評議会から解約が困難と指摘され、米国や独仏など各国の消費者団体から批判されていた。

ヤフーも今年6月に「Yahoo!ショッピング」の注文確認画面で、メールマガジン配信の初期設定を従来の「配信あり」から「なし」へと変更した。

国内外のECサイトやサブスクサービスではいまだにダークパターンを続ける企業は多い。操作ミスによる意図せぬ解約を防ぐなど消費者側にも一定のメリットがある。

とはいえ、追加料金などの悪質な仕組みを放置すれば消費者の信頼を失いかねない。仮想空間「メタバース」などネットと現実のハードルが曖昧になるなか、意思決定の透明性確保は不可欠だ。

ダークパターンに詳しいデザイン会社コンセント(東京・渋谷)の長谷川敦士社長は「売上高や解約率など目先の数字を優先しすぎると、企業側も意図せずダークパターンにしてしまうこともある。自社の(サービスの)インターフェースを見直す必要がある」と指摘する。

規制を強化してもいたちごっこになる可能性もあるとして、「利用者も存在を知った上で、反射的に動かず一呼吸を置くことを心がけるなど情報リテラシーを高める必要がある」としている。

(サイバーセキュリティーエディター 岩沢明信、伴正春)