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DBS、時価総額はみずほの倍 新興支援にも強さの源泉

【NQNシンガポール=秋山文人】シンガポールの大手金融DBSグループ・ホールディングス株が堅調だ。株価は2022年の年間で3.6%上昇した(16日時点)。時価総額は日本の3メガバンクと比較しても上位に入る。成長率の高いアジア市場を商圏とするほか、経営のデジタル化への傾斜などが市場で評価されている。そしてもう一つ見逃せないのが、スタートアップ支援で成長を「種まき」する姿勢だ。

環境関連のイノベーターに物心提供

「26日までにご応募を」。持続可能性の分野のスタートアップを支援するプログラム「サステインテック・エクセレレーター(Sustaintech Xcelerator)」のウェブサイトでは参加者を募っている。今年で2回目となる企画だ。

DBSが主導し、世界銀行や米グーグル、シンガポール政府系投資会社テマセク・ホールディングス、シンガポール国立大学(NUS)などが世界中のスタートアップを対象に支援する。最多で5つの企業・団体を選び、総額25万シンガポールドル(約2500万円)を支援する。

2021年に実施した初回は、排出量取引に関係するスタートアップを募り、約300の応募から5つが選ばれた。2回目の今回は「二酸化炭素(CO2)など温暖化ガスの削減にかかわる、気候変動のイノベーター」を募集している。

1社・団体あたり5万シンガポールドルの支援は大きい。だがそれだけではない。「もっと大きいのはDBSやグーグル、世銀などの技術や人材にアクセスできることだ」。投資や資金繰り、技術のスケールアップ、人材確保、政策などについて様々な人と話すことができるようになることもプログラムのメリットだと語るのは、事業を担当するDBSのチーフ・イノベーション・オフィサーのビドゥユット・ドゥムラ(Bidyut Dumra)氏。いわば物心で支援するということだ。

どのようなスタートアップが選ばれるのか。第1回で特徴的だった例として、ドゥムラ氏は米環境関連団体レインフォレスト・コネクションを挙げる。森林の木々に機器を取り付け、チェーンソーの音を認識して違法伐採を検知するという取り組みを進めている。「同じ人工知能(AI)を使い、動物の音を聞いて鳥の生息状況なども把握できるようになっている」と驚く。

第1回では北米、英国、南米など国外のスタートアップが対象となった。「今回はシンガポールのスタートアップにも注目したい」(ドゥムラ氏)。前回は応募総数の10%が国内からだったためだ。気候変動に向けた取り組みは目下、シンガポールが官民挙げて取り組んでいる最重要課題の1つ。欧米など先進国へのキャッチアップを目指している。

プログラムを担当するドゥムラ氏はDBSのイノベーション事業を統括している

スタートアップが変える大銀行

DBSがスタートアップとの協業を深めたのは5年以上前からだという。デジタル化やフィンテックなどDBSが直面する問題の解決について、スタートアップの力を借りるというところから始まった。アウトソーシングにより完全に外部の力で課題を解決するやり方から、技術の内製化へと変化するなかで、スタートアップと協業する機会が増えていった。

スタートアップとの関係もより深まっていく。DBS全体の戦略が「金融の課題から持続可能性の課題に軸足を移していった」(ドゥムラ氏)ことで、新しい技術に取り組むスタートアップとの事業展開が必須となっていった。スタートアップは規模が小さく、大企業と同等の保険を持っているわけでもなく、調達手段も流動資産も乏しい。ドゥムラ氏は「大企業とは異なるため、われわれもプロセスを改めるように挑戦していった」と語る。

こうしてスタートアップとの協業の仕組みができあがった。「支援」という上からのアプローチではなく、同じ目線でビジネスに取り組んでいけるようになったというわけだ。

シンガポール最大の銀行、市場が評価する先進性

DBSへの高い評価は時価総額が象徴している。約880億シンガポールドル(約8兆8000億円)と、みずほフィナンシャルグループ(4兆3000億円)の倍に達する。三菱UFJフィナンシャル・グループ(9兆9000億円)に迫る勢いになっている(19日午前時点)。スタートアップとの距離感が示すように、時代の潮流に機敏に対応できる点が株式市場で評価されているようだ。

現在は仮想空間「メタバース」に関心を持つというドゥムラ氏の発言にも先進性がにじみ出る。スタートアップへの支援は、大手金融が金融の枠を超えて発展するための内部の改革ももたらしているようだ。