新型コロナウイルス禍で在宅勤務が広がり、好調が続いていたが、建材費高騰に伴う販売価格の上昇が消費者の購買意欲に冷や水を浴びせている。実質賃金が伸び悩むなか、住宅ローン金利にも先高観が出ており、ハウスメーカー各社は警戒を強める。
「10、11月の集客が落ちている。物価高で生活費が上がり、顧客の購買意欲が落ちているかもしれない」。ハウスメーカー大手、東栄住宅(東京都西東京市)の佐藤千尋社長は懸念する。
飯田グループホールディングス(GHD)傘下の同社は都内中心に首都圏で販売し、平均4000万円台の建売住宅が主力。コロナ禍で20年度は過去最高の売上高を達成。2021年度は20年度比で減収になったものの、販売価格の上昇で過去最高の営業利益を達成した。家で過ごす時間が増え、マンションに比べて間取りが広い戸建ての良さが見直されたためだ。
「これまで都心のマンションを買っていたパワーカップル(世帯年収1000万円以上の共働き夫婦)が、少し郊外の戸建てを買うようになった。コロナ後は夫婦だけの購買客が約3割を占める」と佐藤社長は話す。顧客層が広がり、戸建ては若い子育て世代が買うものというイメージが変わった。
ただ、コロナ禍は木材や鋼材、物流費など建設コストの上昇も招いた。国土交通省の不動産価格指数(2010年平均=100)によると、22年8月の首都圏(1都3県)の戸建て価格指数は121.3で、国内でコロナの感染が初めて確認された20年1月(99.7)に比べ2割以上も上昇している。
特に22年度は円安の進行で輸入に頼る資材の価格が上がり、需要も強かったため、販売価格の上昇が加速。飯田GHDの22年4~9月期の都内の販売戸数は前年同期とほぼ同じだったが、平均販売価格は10%上昇した。

佐藤社長は「首都圏は高所得者が多く、価格を上げてもまだ売れる。武蔵野市や三鷹市などは買いたい客は多いが、土地の仕入れが難しい。一方で地方圏は価格上昇に顧客がついてこれなくなっている」と指摘する。首都圏を環状に結ぶ国道16号より外側の郊外も販売価格が大幅に上昇し、地元客には購入が難しくなっているという。
東京都町田市や相模原市などを地盤とする創建(町田市)の深沢勝社長は「コロナで需要を先食いした。これ以上の価格引き上げは難しい」とみる。
同社は駅から離れた場所で広さ102平方メートル前後の新築をセミオーダーで販売している。建材価格高騰を受け、販売価格は22年春から夏にかけて200万円ほど上昇し、約4000万円になった。深沢社長は「以前のように強気では売れなくなった」と言う。
日銀は低金利政策を続けるが、世界的な金利上昇を背景に一部の大手銀行は11、12月に住宅ローンの10年固定の最優遇金利を引き上げた。飯田GHDの西野弘専務は「販売価格の上昇と金利の先高観、インフレに伴う実質賃金の低下が重荷となっている」と指摘する。
戸建ては転勤や子どもの卒業式がある春先が、年間で最も売れる。23年春の見通しについて、東栄住宅の佐藤社長は「物価高で景況感の悪化が続けば、22年春より厳しくなる」と予測する。創建の深沢社長は政府の景気刺激策や住宅購入の優遇策がなければ「水平飛行から低空飛行に下がる可能性がある」とみる。
ただコロナ禍で戸建てに対する消費者の見方が変わったことは、今後も需要を下支えしそうだ。飯田GHDの西野専務は「(1996~2012年生まれの)Z世代が今後5年以内に主要購買層になる。ネットにつながりやすく、使いやすい宅配ボックスを備えるなど、デジタル世代のニーズを捉えた住宅を開発し、需要を取り込みたい」としている。(堀江耕平)
1年で500万円上昇「住宅ローン審査通らない例も」
新築戸建ての販売価格のうち、建材費は25~30%を占めるとされる。リクルートの住宅情報サイト「SUUMO」のデータでは、2022年の首都圏の価格は21年比で約500万円上がった。笠松美香副編集長は「例えば3000万円の物件は3500万円となり、それでは住宅ローンの審査が通らないというケースが増えてきた。パワーカップルなど高所得者しか買えなくなっている」と指摘する。
コロナ特需に加え、21年11月に住宅ローン控除の特例措置が適用期限を迎え、駆け込み需要があったことも、22年以降の需要の弱含みにつながっているようだ。23年春の見通しについて、笠松氏は「木材価格は落ち着いたが、建材や住宅設備は値上げが続いている。国の優遇措置もなく、プラスの材料がない」と話す。
では買えなくなった人たちはどうしているのか。「ファミリー向け賃貸物件が堅調だ。様子をみているのでは」と笠松氏。中古物件は「リフォーム費用を含めると新築価格と変わらなくなる」ため、新築の代替としての役割は限られるという。
コメントをお書きください