2022年は、ロシアのウクライナ侵攻を受けて国際社会の分断が深刻さを増し、供給網の確保やエネルギー安全保障の重要性が高まった。急激なインフレに直面し、食品などの値上げラッシュが起きた。新型コロナウイルス禍からの経済再開に各国が動く一方、世界景気の減速懸念も強まっている。日本企業は23年にどう動くのか。有力企業のトップに聞くシリーズの第1回はニトリホールディングス(HD)の似鳥昭雄会長。歴史的な円安にある為替相場・インフレの見通しや対策を聞いた。
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――今年は約32年ぶりに1ドル=150円台を付けるなど、円安・ドル高が急激に進みました。海外で生産した家具や雑貨を輸入して販売する、SPA(製造小売業)の事業モデルも影響を受けましたか。
「為替相場は逆風だった。商品の約9割を海外で生産しており、対ドルで1円の円安が年20億円の減益要因になる。22年10月以降は円高傾向になるとみて9月分まで1ドル=114円90銭で為替予約をしていたが、予想が外れた。もっと長期で予約をすべきだったと反省している」
「利上げが続く米国では景気減速の指標も出てきており、(足元で7%台の)インフレ率も早ければ来年夏ごろに2~3%に落ち着くだろう。日本は来年春にも日銀総裁の交代が見込まれ、マイナス金利政策を修正して金利を上げる方針転換が起きるかもしれない。(円安・インフレが続いた今年から)潮目が変わるだろう。来年中には1ドル=120円と円高に転じ、110円台もありうる。予想が的中するかどうかはわからないが、為替相場の動向については、それほど心配をしていない」
――来年の事業環境をどうみますか。

「今年は一時、物流費が約2倍に跳ね上がった。ただ、足元では徐々に下落傾向にあり、12月の契約分はかなり下がった。来年4月ごろには高騰前の水準に戻るとみている。来年には、原材料も値上がりから値下がりへと変わるだろう。(物流費や原材料費の下落などを受けて)あらゆるモノの価格も下がっていく。その意味で、来年は『元に戻る年』になるとみている」
――物価高などを受けて、今年は一部の商品を値上げしました。
「円高や原材料費の下落などが進めば、非常に追い風となる。個人消費の回復も期待できる。円高が定着すれば、商品の値下げもできるだろう。アジアでの生産能力も増強させる。6月にはタイのカーペット工場の敷地内に新たな建屋を増設した。23年中にはベトナムに新たな家具工場を新設する。稼働中のベトナムのカーテン工場は生産能力を倍増する」
「これまではとにかく『進め進め』で事業を拡大してきたが、今は会社を身軽にして鍛えるときだ。潮目が変わり始めるまでは、徹底したコスト削減に取り組み、会社を筋肉質にしていく。社内の問題点を探し出して、無駄をそぎ落としている。各部署で経費の見直しと削減、組織の再編成などを進めていく」

――最近は中国大陸などアジアへの出店を増やしています。
「日本企業はもっとアジア市場を開拓しなければならない。ニトリHDは中国大陸などアジアの出店に引き続き注力していく。23年3月期は中国大陸や台湾、マレーシアなどに計39店舗を出店する予定だ。日本では同期に約100店を出す計画だが、中長期的には国内に大型店を出せる余地が狭まっていく見通し。できるだけ早く海外での出店ペースを年間100店にしたい。25年3月期には海外出店の数が日本を上回るだろう」
「米国がくしゃみをすれば、世界中の景気が悪くなる。日本の経済成長率予測がさらに下がるかどうか心配だ。ただ、米国や欧州と比べて、アジア圏の市場はこれからさらに伸びていく。特にインドは市場として将来有望だ。(新型コロナウイルスを厳しく抑え込む)ゼロコロナ政策の緩和もあり、中国の景気減速のスピードは緩やかになるのではないか」
――9月には米国からの撤退を発表しました。
「最大5店舗を構えていたが、23年4月までに順次閉店していく予定だ。ただし完全な撤退ではない。米国に進出するチャンスは今後もあるだろう。アジアで十分な力を蓄えてから、数年後にまた挑戦したい」
1966年北海学園大経卒。67年似鳥家具店創業。72年に株式会社化し、78年社長。2016年2月から現職。78歳
デジタルを活用 事業の革新急務
似鳥会長はIT(情報技術)部門の人員を2032年までに現状の約3倍となる1000人に増やす方針を掲げる。4月にはIT子会社を設立し、世界でも珍しい「(原材料の)調達から販売まで一貫型の在庫管理システムを内製化する」(似鳥会長)。
インフレ下で個人消費の先行きが不透明となる中、デフレの波に乗って成長してきたニトリHDが事業モデルを革新できるかどうか。同社だけでなく、日本の小売業の未来も占う。
(坂本佳乃子)
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