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「Snapchat」欧米でZ世代の9割利用 日本展開の戦略は

米国での創業から11年、欧米では現在、Z世代にあたる13~24歳の90%が利用するまでに定着している。日本法人代表の長谷川倫也氏に、今後の展望を聞いた。

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Snapchatは、投稿してから24時間で写真や動画、メッセージが自動的に消える写真共有SNSだ。アプリには、豊富なフィルターやエフェクトを備えたカメラ機能を搭載。アプリで自分の顔を映すとさまざまなフィルターで撮影ができ、その写真を他のユーザーに送信・共有できる。 

例えば、犬の顔のように加工された自撮り写真を見たことがある人も多いのではないだろうか。最近では、2次元キャラクターの顔のように加工した写真も人気だ。これらはSnapchatのフィルター(Snapchatでは「レンズ」と呼ぶ)を使って撮影したものだ。他のSNSにもフェースフィルター機能はあるが、スナップは自社を「カメラカンパニー」と称するだけあり、サービス開始当初からフィルターなどを備えるカメラ機能に注力してきた。フィルターには「盛る」「映え」を目指すのとは異なる、ユニークなものもあり、独自性を確立している。

ユーザーの顔をアニメのキャラクターのように変えるレンズと、ブロッコリーに変えるレンズ。両方とも21年に日本で最も人気があったものだ。中央に絵柄がついている黄色い四角は、「スナップコード」と呼ばれるQRコードのようなもの。Snapchatのレンズで読み取ると、ユーザーやフィルターなどを追加できる

ただ、Instagram(インスタグラム)やTwitter(ツイッター)、Facebook(フェイスブック)といった先行サービスの存在、さらに近年ではTikTok(ティックトック)の台頭などで、日本ではSNSとしてのSnapchatの印象は薄い。16年ごろには投稿から24時間で消える仕様とユニークなフィルターが若い世代を中心に話題を集めたものの、定着には至らなかった。しかし、スナップによると、欧米ではZ世代にあたる13~24歳の90%がSnapchatを利用しており、ユーザーの1日あたりの平均アプリ起動回数は30回。22年4月時点で、世界のSnapchatの月間利用者数は6億人を突破し、22年9月時点のデイリーアクティブユーザーは、3億6300万人以上にのぼるとしている。

そんな中、22年3月にスナップは日本法人を設立。米カリフォルニアでの創業以来、11年を経てのことだ。なぜこのタイミングでの日本法人設立だったのか。スナップ日本法人であるSnap Japan代表の長谷川倫也氏は「日本のSnapchatの現状に課題を感じているため」と明かす。

Snapchatの日本での課題とは

上述のように、Snapchatは写真加工用のフィルターが豊富だ。しかしその特徴が裏目に出て、Snapchatが目指す本来の使われ方が浸透していないのではないかと、長谷川氏は語る。「どうしても面白変顔アプリだと思われてしまい、他のフィルターアプリと同列に語られることも多い。しかしそもそもSnapchatは、親しい人との関係をさらに深めるためのビジュアルコミュニケーションアプリとして誕生したものだ。本当に親しい人とのなんてことない会話のように、特に意味はなくても温かい思い出になっていくような、そういうコミュニケーションを生み出せるのがSnapchat本来の魅力だと思う。そこに早く気づいていただけるようにするのが、日本での今の課題だ」

親しい人との仲を深化させるツールという価値が適切に伝わっていないため、潜在的なユーザーを獲得できていないのではないか。こうした思いが、日本法人の設立とサービス展開の強化を決めるきっかけになったのだという。 

日本でのサービス展開の強化にあたり、Snapchatが他のSNSと差別化できるポイントとして、長谷川氏は2点を挙げた。

1つ目は、「他のSNSにありがちな、キラキラした自分を演じなければいけないといったプレッシャーがなく、素の自分を友達と毎日共有できる」(長谷川氏)ことだ。Snapchatに投稿した写真や動画、メッセージは、24時間で自動的に削除されるため、ユーザーは個人ページを持たない。投稿へのいいね機能もなく、フォロワー数や友達数なども表示されない。他のSNSのように、不特定多数のユーザーとつながることを目的とせず、親しい人にのみ、自分の日常の出来事を写真や動画を通じて話すような感覚で使うことができる。このため「映えなくてはいけない」といったプレッシャーがなく、気楽に投稿できると長谷川氏は説明する。

2つ目は、Snapchatが備える拡張現実(AR)技術の活用だ。250万種類以上が開発されているSnapchatのフィルターは、スナップが持つAR技術によるもの。培ってきた技術を、写真撮影以外の機能や用途にも応用していく。

具体的にどのような活用を見込んでいるのか。その1つが、ARによるバーチャル試着だ。ARをネット上でのショッピング体験を向上させるツールとして浸透させていく。

Snapchatには、アパレルやコスメブランドが提供するフィルターも用意されており、そのフィルターを選択すると、商品をAR試着することができる。例えばクリスチャン・ディオールが提供するスニーカーのフィルターでは、カメラを自分の足にかざすと、「Dior」ブランドで販売しているスニーカーを履いているようにスマホ上に映し出され、着用イメージを見ることができる。足を動かしてみると、実際に試着しているかのように動きに合わせてスニーカーも動く。もちろんフィルターから直接電子商取引(EC)サイトに飛び、試着した商品を購入することも可能だ。ディオール以外にもプラダなどのアパレルブランド、M・A・Cなどのコスメティクスブランド、FARFETCHなどのファッション通販サイトが試着機能フィルターを提供している。 

クリスチャン・ディオールのスニーカーのフィルターを選択しカメラをかざすと、商品をAR試着できる。タップするだけで色違いの商品も試着可能。「今すぐ購入する」ボタンを押すと、ブランドの公式ECサイトに遷移する

ARでのショッピング体験の向上について、長谷川氏はこう話す。「ARを使ったバーチャル試着による買い物体験は、ブランドの認知度を44%、購入率を94%向上させる。また、返品率を25%引き下げることが分かっている。(Snapchatを使った)ARでの試着体験は、ブランドの認知と同時に(試着という)体験も可能にするため、購入までのスピードを加速させる。ある程度商品やサービスのクオリティーが均一化されてきている現代においては、いかにブランドのファンになってもらえるかが重要だ。そうした状況において、顧客接点の早い段階から体験を提供しファン化を進めることができるブランドは、商品の質とは別の軸で差別化ができるのではないか」

「サングラス型ARデバイス」を日本ローンチ

さらにSnap Japanは、AR技術の活用を促進するため、サングラス型ARデバイス「Spectacles(スペクタクルズ)」の開発とユースケースの拡大も行っていくという。これまでは、スマホ上のフィルターというツールを通してAR技術を提供していたが、ウエアラブル型にすることで、デバイスの選択肢を増やし、より没入感あるAR体験を創出できるとしている。

ユースケース拡大の第1弾としてSnap Japanは、アプリケーションやAR・VR(仮想現実)コンテンツを開発する企業、デザイニウム(福島県会津若松市)と協業し、Spectaclesを使用したARコンテンツを開発。Spectaclesをかけて観光地や歴史的建造物を訪れると、建造物が建てられた当初の街の映像や画像が映し出されるという機能を発表した。Spectaclesをかけるだけで、現在と過去をミックスした新たな体験となり、ひいてはただその地を訪れるのとは違ったコミュニケーションが生まれる。まさにスナップが目指す、ARを活用したコミュニケーションの深化に寄与する体験だ。 

サングラス型ARデバイス「Spectacles」

Spectaclesは、スナップが17年から販売しており、現在第4世代まで発表されている。日本に導入されるものも第4世代だ。ただし、現在は非売品で、発売も未定。当面はまずクリエーターや企業に開発用に提供し、ともにSpectaclesを用いたコンテンツや施策を考案していくという。

画像や動画を介し、親しい人とのコミュニケーションを深めるというもともとの機能に加え、ARによるバーチャル試着やSpectaclesを使ったARコンテンツの活用など、カメラを使ったコミュニケーション全般に活路を見いだすスナップ。それを日本でも浸透させるべく、Snap Japanは日本では初となるキャンペーンも開始した。日常の利用イメージを喚起させるため、単なる「面白変顔アプリ」だけではない、Snapchat本来のコミュニケーションツールとしての使い方を前面に打ち出したキャンペーン動画を制作、公開した。

「Snapchatは他のSNSとは異なり、素の自分を親しい人と共有して一息つける場所だ。出る杭(くい)が打たれるような文化がある日本だからこそ、Snapchatは日本にカルチャーフィットし、求められるのではないかと感じている」と長谷川氏。同社はアプリの魅力を伝え、日本で存在感をアピールできるか。今後の展開に注目だ。

(日経クロストレンド 河村優)

[日経クロストレンド 2022年11月29日の記事を再構成]