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NISA大進化 恒久化・投資枠「1800万円」をフル活用

「毎月の積立額を3万円から10万円に増やせるのは大きい」「投資枠が大きくなるなら、これまで1単元の購入額が高すぎて諦めていた銘柄にも投資できる」「ジュニアNISAが来年で終わってしまうが、子どもが成人するまでは自分のNISA口座で運用しよう」――。現行の少額投資非課税制度(NISA)の利用者からは喜びの声が聞かれる。

NISA拡充、政府・与党の「満額回答」

2024年からの制度恒久化と投資枠の大幅拡大。金融庁が8月に公表した改正要望に対し、政府・与党はほぼ「満額回答」を出した。特に年間の非課税投資枠は最大360万円と、NISAの手本であり、これまで引き合いに出され続けてきた英ISAの2万ポンド(約340万円)をしのぐ規模で、師走のサプライズとなった。すでにNISA投資を始めている人も、23年までの投資分はその後も期限まで非課税メリットが続く。

今回の大幅改革にこぎつけるまで、NISA制度を巡ってはドタバタ感が否めなかった。

14年に始まった一般NISAは、5年の期限が終わった後も非課税運用を続けたければ、新たなNISA枠への「ロールオーバー」の手続きをしなくてはならない。ジュニアNISAは子が成人するまで引き出せないことが不人気を招き、思うように普及せず廃止が決まった。

特に24年から始まる予定だった2階建ての新NISAは「投資枠の消費の仕方やそれぞれの階で買える商品の違いなど、仕組みが複雑すぎて、理解を諦めてつみたてNISAに移行した」(東京都在住の山西ひろきさん、39歳、仮名)と不評が極まっていた。

新制度、コツコツ長期投資にぴったり

これまでのNISAは時限措置だった。いつまで制度が続くか分からなければ、長期保有目的では投資しにくい。新生NISAでは、成長投資枠を使えば個別銘柄に長期投資ができるようになる。投資信託協会の松谷博司会長は「少額でも自分の資金が社会を変えているという実感を持ちながら投資する人が増えてほしい」と期待する。

つみたてNISAはこれまで非課税期間が20年だったが、恒久化により、例えば毎月5万円であれば積立期間を最長30年に延ばせる。毎月5万円の積み立てを年率3%で運用できたと仮定すると、生涯上限の元本1800万円が約2900万円に増える計算だ。

NISA自体は当初、非課税投資制度として歓迎されたものの、使い勝手の面でユーザーの不満が多かったのは事実だ。そうした悩みはほぼ解消される。真の「投資家フレンドリー」な制度が始まろうとしている。

まだ遠い「貯蓄から投資へ」、NISA口座は休眠3割

欧米に匹敵する支援制度が整おうとしている今、日本が見劣りするのは家計金融資産だ。21年末、日本の個人金融資産が初めて2000兆円の大台に乗った。ただ00年末から2~3倍に増えた英国や米国に比べ、日本は1.4倍にとどまる。

金融資産の過半を現預金が占めているため、増加率が小さくなるのは当然だ。資産を増やさないと年金だけでは老後の暮らしを支えきれない将来が見えてしまっている今、個人が資産形成をしやすい仕組みづくりがやっと本格化する。

NISA口座は増加を続けているものの、「コロナ相場」下の大幅増が落ち着き、増加率は鈍化している。足元のNISA口座数は約1700万と、対象人口の2割弱にとどまる。さらに口座開設だけで投資されていない「休眠口座」が約3割もある。実際にNISA投資をしているのは対象人口の約1割にすぎないのが現状だ。

政府は今後5年で3400万口座までの倍増を目指す。制度という箱は整っても、新たな投資家が入ってくる具体的な動線はあまり見えてこない。「金融教育だけでは投資家になるまで時間がかかる。口座も作って終わりではなく、稼働口座を増やす金融機関の工夫も必要」(ニッセイ基礎研究所の前山裕亮主任研究員)になりそうだ。どうやって投資への無関心層を引き込むかが喫緊の課題だ。

NISA拡充を機に日本でも遅ればせながら「貯蓄から投資へ」の機運が高まるのは確か。新制度をフル活用するため、改めて自分の100年人生の資産づくりをプランニングしてみよう。

非課税メリット最大化作戦、生活・年齢に応じ柔軟に

NISAが大きく生まれ変わろうとしている。一般NISAで5年、つみたてNISAで20年と期限があった非課税期間は2024年1月から恒久化され、非課税投資枠も拡充される。投資家にとってメリットが大きい新制度をフル活用するにはどうすればよいか、ポイントを押さえよう。

愛知県に住む山崎快斗さん(仮名、31歳)からは「20年以上の長期運用を考えていたので恒久化は大歓迎」との声が聞かれた。現在、夫婦それぞれのつみたてNISAで米国株投信を積み立て、ジュニアNISAで子どもの将来資金のためにグローバル株投信を積み立てているという。

非課税投資枠が引き上げられることで、24年から廃止になるジュニアNISA分と、現在はNISAの非課税枠に収まりきらず課税口座でも運用している分を、すべて夫婦のNISA口座でまかなえるようになる。

積み立てとの併用も可能に

制度が使える期間、投資可能期間ともに恒久化されるため、これまで5年、20年と非課税期間に別々の縛りがあった一般NISAとつみたてNISAは一本化される。

さらに、これまでは一般NISAかつみたてNISAどちらの口座を開くか二者択一で選ばなくてはいけなかったが、併用が可能になる。年間の非課税投資枠は現行のつみたてNISAを引き継ぐ「つみたて枠」が120万円、一般NISAの概念を引き継ぐ「成長投資枠」が240万円だ。

ただ、年間の非課税投資枠に収まれば永久に新規投資を続けられるわけではない。今回のNISA拡充で、生涯の非課税投資枠は1800万円に定められた。そのうち成長投資枠で使えるのは1200万円までだ。

岸田文雄政権にとってNISA拡充は看板政策「新しい資本主義」の柱だ(9月に米ニューヨーク証券取引所で講演しNISA恒久化を表明した岸田首相)

岸田文雄首相が「中間層を中心とする層が将来にわたって安定的に資産形成する環境を整備する」と強調するように、国民の資産形成を目的としているため、長期保有が前提の仕組みになっている。制度の詳細は今後決まるが、成長投資枠で購入できる商品からは高レバレッジ型の金融商品を除外するなど、投機的な運用には使われない工夫が加えられる。

生涯上限1800万円、毎月5万円で30年

「人生100年時代」を見据えた具体的な運用方法を考えてみよう。ポイントになってくるのは生活と年齢。自分の生活に影響を及ぼさずに毎月捻出できる投資額と、老後までに投資可能な期間を考えてみよう。

例えば、老後まで30年以上投資が可能な30代は、長い期間を使って積み立てを続けるのも一案だろう。毎月5万円の積み立てを続けていけば、30年で生涯非課税枠をフル活用できる計算になる。

毎月の積立額をもう少し多くできる人は、月10万円で15年積み立てを続けられる。積み立ての利点はなんといっても「ドルコスト平均法」で下がったときに投資信託の保有口数を増やすことで、その後のリターンを大きくし、リーマン・ショックのような急激な相場変動のリスクを平準化できることだ。

人生いろいろ、運用法もいろいろ

制度が恒久化されたことによって、老後資金が必要な時期までの期間から毎月の積立額を計算し、自分に合った運用方法をアレンジできるようになった。

子の教育費や親の介護など、資金が必要な世代は、インカムゲインも意識したいところだ。積み立てと併せて成長投資枠で高配当株を保有することも視野に入れるといいだろう。リスクを取れる人は、最初の5年ですべての枠を消費することもできる。買い付け後も運用を続けられるので、現預金で持っているよりもリスク資産で運用したい人は非課税運用のメリットを享受できる。

企業型確定拠出年金(DC)や個人型確定拠出年金(iDeCo、イデコ)と違い、好きなときに現金化できるのもNISAの利点だ。ただ、資金が必要になったときに資産が増えているとは限らない。株式や投信といったリスク資産に投資している限り、常に元本割れのリスクを忘れてはならない。

生涯投資上限枠の1800万円は、買い付けたときの金額で計算する。売却した分は買い付け時の金額分、投資枠が復活するので、買い直しはできるが、相場環境によっては計画通りの資金が確保できない恐れがある。

住宅の購入や子どもの大学進学など、まとまった資金が必要なときに直前に現金化するのではなく、少なくとも1年前くらいから現金化のタイミングを見計らいたいところだ。

福井環、江渕智弘、斎藤正弘が担当した。グラフィックスは田口寿一。