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「仮想空間でビジネス」すぐそこ 大手相次ぎ巨大投資 西原勇介「ビジネスコミュニケーションの新常識」(6)

書籍『それでは伝わらない!ビジネスコミュニケーション新常識 デジタルグローバルな作法は若者に学べ』(2022年8月、日経BP発行)のエッセンスを6回にわたって紹介する。

22年1月18日、米マイクロソフトがゲーム大手アクティビジョン・ブリザードの買収を発表しました。アクティビジョンは、「Call of Duty(コールオブデューティ)」など、世界中に根強いファンがいるビッグヒットタイトルを多数抱えているゲーム会社です。買収額は、総額687億ドル(当時の為替レートでおよそ8兆円)とされています。

史上最高8兆円で買ったのは「未来のビジネス空間」

マイクロソフトはXboxというゲーム機を提供しているので、ゲーム会社を買収することに違和感はありませんが、約8兆円という買収額はマイクロソフトとしても過去最高額であり、関連業界に大きな衝撃が広がりました。

マイクロソフトのサティア・ナディラ最高経営責任者(CEO)は、22年3月の経済紙インタビューにて次の趣旨を伝えています。

メタバースは、仮想空間の中で人物やモノを配置します。近い将来、メタバース内のアバター(自分の分身となるキャラクター)やホログラムを通じて、サラウンドオーディオ環境の整った仮想空間のオフィスで人々は仕事をするようになるでしょう。これは、長い間ゲームでやってきたことです。つまり、メタバースを作ることは、ゲームを作ることです。

「メタバース」という言葉が登場しました。メタバースは、仮想現実世界の中に人々が入り込み、ゲーム、オフィス、エンターテインメントなどあらゆることを、没入空間の中で実現できる世界のことを言います。このナディラCEOの言葉から、マイクロソフトによるゲーム大手の巨額買収は、単純なゲームビジネスの強化ではなく、メタバースでのオフィス・プラットフォームへの一手であることが分かります。

さらに、ナディラCEOは次の趣旨も伝えています。

若い世代が将来仕事に関わるようになったとき、仮想オフィス空間はどうあるべきか。それは、若い世代が今のゲームのインターフェースに何を求めるかを知ることで見えてきます。例えば、マインクラフト(3次元=3Dブロックで構成された仮想空間の中で、モノづくりや冒険が楽しめるゲームで、オンライン上の他の友達との交流も楽しめる)でアバターを使っている若者は、仕事でもアバターを使うと心地よいと感じるかもしれません。今後、新しいオフィス機能を構築する場合、現在の若者の価値観を重視していくべきです。

マイクロソフトは、「ゲーム空間で様々なアバターを使い、独自のコミュニティーを形成する若者が、将来、オフィスや働き方、コミュニケーションにおいて、ゲーム上で慣れた体験を求めるだろう」と考えているのです。

フェイスブックが巨額投資するメタバースオフィス空間

米フェイスブックは21年10月28日、社名を「メタ・プラットフォームズ」に変更すると発表しました。この「メタ」の由来は「メタバース」であり、同社がメタバースの覇者を目指すことを世界に知らしめました。

21年、メタは100億ドルを投資しており、今後10年間は収益を度外視して投資を継続すると発表しています。既にSNS(Facebook、Instagram)、メッセージアプリ(Messenger、Whatsapp)の覇者である同社が、社運を賭けた舞台として投資しているのがメタバースなのです。マーク・ザッカーバーグCEOは22年3月に開催されたテクノロジーカンファレンスでメタバースについて次のような趣旨のメッセージを出しています。

04年に会社を設立した当時のコミュニケーションは、テキスト中心で、Facebookもテキストを投稿するSNSでした。数年後、スマートフォンの登場でテキストは画像になり、そして動画へと移行しました。ここが終着点ではなく、次の段階は、没入して離れた人ともまるで一緒にいるような感覚を持てるコミュニケーション、それがメタバースであり、今開発しているテクノロジーはすべて、このような臨場感を生み出すためにあります。

西原勇介(にしはら・ゆうすけ) ディレクトリジャパン代表取締役。1981年愛知県生まれ。明治大学法学部卒業。ハーバードビジネススクールPLD修了。大学卒業後、米国へ留学し、サンフランシスコの果物商社で貿易実務を経験。帰国後、外資系コンサルティング会社のアクセンチュアに入社。サプライチェーングループの経営コンサルタント、マネジャーとして、大手企業の物流戦略・アウトソーシング戦略立案、実行を支援。2013年、ディレクトリジャパンを設立。新規ウェブサービス事業の立ち上げを経て、15年にベトナムでのオフショア開発事業開始。会社経営者また現場ディレクターとして、7年間、日本とアジア合同デジタルチームを支援。事業経営、執筆などの活動を通じてグローバルコミュニケーション課題の解決に取り組む(写真:矢吹健巳、ヘアメイク:松本和也)

メタは「Horizon Workrooms」という仮想空間(VR)ヘッドセット(Meta Quest)を装着して利用するビジネスオフィスアプリを既に製品化しています。それを使うと、同じオンライン上のオフィス空間に没入し、遠く離れた同僚のアバターと向き合いながらディスカッションしたり、共通のホワイトボードに手書きでイメージを描いたり、アイデアを出したりすることができます。メタは、メタバースにおける日常からビジネスまでの一貫したコミュニケーションプラットフォーマーとなるべく、多額の投資を行っているのです。

世界時価総額トップ10に入る2社(マイクロソフトとメタ)が巨額の投資をしていることから、今後オフィスやオンライン会議の在り方は大きく変わることが容易に想像できます。ZoomやTeamsなどによるオンライン会議や、オンライン上でのテキストチャット、動画などを使ったコミュニケーションは、メタバースオフィス空間の入り口にすぎないと言えるでしょう。

(ディレクトリジャパン代表取締役 西原勇介)

[日経クロステック 2022年8月25日の記事を再構成]