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「貯蓄から投資」 不都合な真実

まず、経済成長なくしては資産所得倍増プランが看板倒れになることをあらためて認識してほしい。2001年に小泉内閣が「貯蓄から投資へ」を打ち出してから20年以上がたつ。国民所得統計上の家計の財産所得はいまだに2000年度の水準を大きく下回る。確かに配当所得は大幅に増えたが、利子所得の減少を補えていない。日本経済の成長力を高め、国民所得、なかんずく企業所得をさらに増やさないことには配当所得の持続的な拡大も見込めない。

家計の合理的な投資行動が海外への資本流出につながる可能性にも注意したい。内外の成長力と金利の格差、運用資産における圧倒的な円資産集中を鑑みれば、リターン追求とリスク分散の観点から海外資産が選好されても不思議ではない。投資信託の売れ筋では米国株式ファンドが上位にランキングされている。金利上昇とリスク回避からドル建てMMF(マネー・マーケット・ファンド)への関心も高いようだ。

加えて、資金循環の構造を踏まえた視点も不可欠だ。01年度からの20年間に国債・財投債の残高は約538兆円増加したが、その8割以上に相当する約446兆円が日銀によって消化されている。もちろん、日銀は負債側では金融機関による日銀預け金の約536兆円の増加によって国債保有を手当てしている。この間に家計は現預金を約323兆円積み増している。

日本の資金循環は政府部門が日銀と金融機関を通じて、ブラックホールのように家計の現預金を吸い上げていく構造となっている。家計における貯蓄から投資への資金循環の創造は本来、赤字を垂れ流す政府部門における資金循環の是正と表裏一体であるべきものだ。

馬を水辺に連れていけても水を飲ませることはできないという。家計が投資に踏み込めないのは、企業の魅力が欠けているからだ。巨額の財政赤字に伴う将来不安もリスク許容力をそいでいる。政府が箸の上げ下ろし的な介入を避け、民間主導で成長できる環境が整えば、馬は自ら水を飲むに違いない。

(倫敦塔)