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少子高齢社会の実像(10) 持続可能な財政の重要性 中央大学准教授 松浦司

最後に少子高齢社会と持続可能な財政の関係を考えます。国債残高は累増の一途をたどり、2022年末には1000兆円を超えると見込まれています。地方分も含めた債務残高は国内総生産(GDP)の2.5倍を超えており、主要先進国で最悪の水準です。

一方、日本の国債は円建てで発行され、大半が日本国内で保有されています。このため、中央銀行が円を増刷すれば問題ない、という主張もあります。そこで、経済学の枠組みである「ISバランス論」を用いて考察します。

ISバランス論とは、民間部門と政府の投資(Investment)と貯蓄(Saving)のバランス合計は、経済全体のバランス(経常収支)に一致するというものです。このうち政府については既に述べたように大幅な赤字です。この赤字を民間部門の貯蓄が埋め合わせれば経常収支は均衡します。

しかし、第4回で説明したライフサイクル仮説に基づくと、高齢化が進展すれば貯蓄が低下すると予想されます。さらに、高齢化の進展は年金、医療、介護といった社会保障費の増加につながります。

現在は民間部門の貯蓄が財政赤字を補っており、すぐに財政危機になることはありませんが、長期的には財政赤字を補えなくなるでしょう。そうなれば経常収支は赤字となります。

考えられる対応は、財政支出の削減か増税です。ただ、財政支出で大きな割合を占める社会保障は、高齢化による自然増の抑制が精いっぱいです。また、社会保障の再分配機能を考えると、過度な削減は適切とはいえません。増税策としては消費税を考えますが、全世代の公平な税負担という長所と、逆進性という短所があります。

そこで、経済学者の下野恵子氏は所得税に注目しています。同じ100万円の所得なら、給与所得も年金所得も同様に課税すべきだという水平的公平性の原則を貫徹すること、様々な所得控除を廃止し、課税ベースを拡大することで消費税増税に頼らずに財源を確保できるとしています。