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職場がホワイトすぎて辞めたい 若手、成長できず失望

「職場がホワイトすぎて辞めたい」と仕事の「ゆるさ」に失望し、離職する若手社会人が増えている。長時間労働やハラスメントへの対策を講じる企業が増えたほか、新型コロナウイルス禍で若手に課される仕事の負荷が低下。転職も視野に入れる彼らには成長の機会が奪われていると感じられ、貴重な人材に「配慮」してきた企業との間で食い違いが起きている。

 

2015年以降、労働に関する法律が整備され、企業は若手社員の負荷削減に取り組んだ。リクルートワークス研究所の調査によると、1999~2004年卒が入社1年目のときの1週間の残業時間が9.6時間だったのに対し、19~21年卒は4.4時間と半減した。ところがこうした働き方改革によって増えた「ゆるい職場」がかえって若手の不評を買っている。

 

パワハラを気にしすぎて身動きがとれない上司

若手の職場への失望感を強めているのが上司のコミュニケーション不足。企業研修を支援するラーニングエージェンシーの根本博之さんは「パワハラなどが気になり、指摘すべきことがあっても伝えたがらない上司が多い」と指摘する。

 

上司の及び腰に加え、職場の「ゆるさ」に拍車をかけたのがコロナ禍だ。

テーマパークの運営会社を離職した後藤真規さん(27)は入社2年目でコロナ禍を経験した。施設の営業再開後も入場制限は続き、来場者数はコロナ前の10分の1にまで減少。それまでやりがいを感じていた「忙しいながらも自分で判断するという仕事ではなくなった」。大学の同級生が大手企業やベンチャーで活躍する焦りもあり、営業支援の企業に転職した。

「きつい職場に戻す」は正解ではない

企業にとってさじ加減が難しいのは、方針を百八十度転換してきつい仕事を振ればいいというわけではない点だ。リクルートワークス研究所の調査でも、きつい職場で働く新入社員の30%が「すぐにでも退職したい」と答えた。同研究所の古屋星斗さんは「職場がきつくてもゆるくても辞める人が増える」と指摘する。

仕事の全体像を見せてモチベーション引き上げ

新人研修を手がけるNEWONE(東京・千代田)の上林周平さんは、若手が現在の職場で成長できないと感じる原因は究極的には「仕事の全体像が見えていないことにある」とみる。実際、若手の離職防止を模索する企業の取り組みには、他の部署の仕事を体験させるものなどが目立つ。

例えば山形県酒田市の楯の川酒造が今年始めた、若手社員が日本酒の新商品の企画から販売までを手がける「若手チャレンジボトル制度」。酒造は全工程を学ぶのに3年はかかるとされ「その間に離職されると技術が継承されない」(広報課の高梨杏奈さん)。最近は分業が進み、若手には仕事が部分的にしかみえていない問題も抱えていた。

参加者はラベルのデザインの発注方法が分からないなど通常の業務より負担は増したものの「先輩や他の部署との交流も生まれ、やりがいを感じてくれたようだ」(高梨さん)。

「社の理念に賛同しても、現在いる部署で同じような意欲が湧くとは限らない」(NEWONEの上林さん)。企業はホワイトかそうでないかで悩む前に、このギャップを埋める必要がある。

「転職より起業」を選ぶ動きも

より高い負荷とやりがいを求めて転職する若手がいる一方で、自己成長意欲の高い人材が企業に属さない流れも生まれている。社会保険労務士の大槻智之さんは「昔は会社でキャリアを積んで昇進したいという人が多かったが、今はそう考える人は起業に向かう」と考察する。近ごろ20代前半の起業が増えたという。学生時代からSNS(交流サイト)を運用し、自身のセンスを生かし起業できるようになったためだ。
「コロナ禍でテレワークが導入される会社、そうでない会社など自由度の差が見え始めた。キャリアを考え直すきっかけになった」(大槻智之さん)
ビズリーチが20年に行った調査によると、コロナウイルスの流行によってキャリア観が変わったと答えた人のうち9割以上が企業に依存しないキャリア形成が必要だと考えている。経験や知識を蓄え、それを生かす場所は問われなくなりつつある。

(浜野琴星)