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超富裕層課税、迷走の末に よぎった「岸田ショック」 岸田予算 2年目の試練(2)

「物事を動かすには振り切ったことをしないとダメだ」。政府が11月28日に発表した「資産所得倍増プラン」を巡り、調整役の内閣審議官、新原浩朗は周囲をこう鼓舞し続けた。

同プランは首相の岸田文雄が掲げる経済政策「新しい資本主義」の柱となる。時限措置である少額投資非課税制度(NISA)の恒久化を明記した。特例扱いしてきたのはいつでも制度を見直せるようにしておきたい財務省などの意向があった。

今回の段取りが異例なのは本来、最終的な決定権を持つ自民党税制調査会が決める前に政府側が案を示した点にある。

党税調幹部にあたる「インナー」はかつて首相も口出しできないとされた聖域。新原が思い切った行動に出た背景には税調会長で旧大蔵省出身の宮沢洋一の存在があった。

「財務省主税局より制度に細かい税調幹部に任せると使いにくい仕組みになる」。政府側は機先を制する布石を打った。

岸田側近の官房副長官、木原誠二らが主導し、岸田は9月の訪米時にニューヨーク証券取引所(NYSE)の講演でNISA拡充を表明。税調の議論を経て、年間投資枠は現行から倍以上の360万円に固まった。

一方の宮沢も2023年度の税制改正への思いは強い。岸田とはいとこ同士で同じ宏池会(岸田派)。伯父の宮沢喜一以来30年ぶりに誕生した宏池会政権を支える自負もある。

岸田政権発足から間もない21年末は議論する時間が限られたが「今年はしっかり議論したい」。宮沢は株式の配当や売買にかかる金融所得課税の強化策にこだわりをみせる。

所得1億円を境に富裕層の所得税の負担率が下がる「1億円の壁」の是正策で、財政再建論者の宮沢がかねて唱えてきた。岸田が掲げる「新しい資本主義」の成果にできるとみる。

もともと岸田も自民党総裁選の公約としていたが、政権発足直後に投資家の間で懸念が広がった。日経平均株価が下がる「岸田ショック」が起きた。

物価高など経済運営が難しくなってきた今、同じ轍(てつ)は踏めない――。木原はNISA拡充の方針と整合性がとれないと判断。「課税強化は逆方向のメッセージになる」と発言して宮沢にクギを刺した。

迷走の末に年30億円を超える「超富裕層」の課税を強化する見通しだ。対象は200~300人にとどまり苦肉の妥協との受け止めが広がる。(敬称略)