ドイツ各地で7日朝実施された強制捜査で警察に逮捕された25人の極右過激派グループは、疎外された社会の底辺の出身ではなかった。
それどころか、逮捕者のなかには裁判官や医師、弁護士、さらには著名シェフまで含まれていた。少なくとも表向きには、全員がブルジョワ階級にふさわしい社会的地位の人々のように見えた。
誰より立派に見えたのが、首謀者とされる「ハインリヒ13世ロイス公」だ。ドイツ東部チューリンゲン地方を800年にわたって統治した貴族一族の子孫だ。
エンジニアとして教育を受けた不動産業者のロイス容疑者は、オールバックの銀髪にツイードジャケット、ポケットチーフ、ペイズリー柄のネクタイを身につけ、まさに典型的な上流階級ドイツ人を体現していた。
だが、この集団の中流階級らしい外見の裏には、ドイツに衝撃を与えた急進主義が隠されていた。捜査当局によると、テロを企てた集団は議会を襲撃し、民主的なドイツ政府を転覆させる計画を立てていた。そしてロイス容疑者が新たな国家元首になる予定だった。
ドイツの情報機関である連邦憲法擁護庁のトーマス・ハルデンワンク長官は、このテロ集団が他の集団と一線を画すのは「ドイツ全体に広がる非常に大きなネットワークと、念頭に置いていた非常に綿密な計画だ。多大な暴力を伴う計画だった」と述べた。「完全に人を殺すつもりでいた」
7日に警察、検察当局が明らかにした計画は、極右の急進主義がドイツの政治システムに突きつける脅威を浮き彫りにした。ドイツ社会における人種差別主義、反ユダヤ主義、極右過激主義と戦う非政府組織(NGO)「アマデウ・アントニオ財団」のベンヤミン・ビンクラー氏は「右翼は次第に自己主張を強めており、民主主義の廃止といった目標を宣伝する言語道断のやり方に反映されている」と話す。
新型コロナで、極右の運動加速
だが、7日の家宅捜索と逮捕は、新型コロナウィルスのパンデミック(世界的大流行)が極右の運動を大きく加速させ、コロナ対策のロックダウン(都市封鎖)反対派、反ワクチン派から米国の陰謀論「Qアノン」の信奉者まで大勢の新たなメンバーの波を呼び寄せたことも浮き彫りにした。

多くの人が暴力に訴えている。ドイツ内務省は5月、2021年に同国内で政治的な動機による犯罪が5万5048件あり、前年比で23%増加し、統計が始まった01年以降で最多を記録したと発表した。事件の約40%は右翼による犯罪だった。だが、38%は左派、右派のどちらにも起因しない犯罪で、ワクチン接種会場や警察署、選挙で選ばれた公職者に対するコロナに関連した攻撃だった。
専門家は、コロナ危機の過程で何千人、何万人ものドイツ国民が自国の民主的な機関への信頼を失い、国家の権力を拒絶し、その正統性そのものを疑う有害なイデオロギーに影響を受けやすくなったようだと話している。
「(コロナ対策に対する)抗議活動が右翼ポピュリスト(大衆迎合主義者)、右翼過激派、陰謀論者、そのほかの境遇の人を主流派の中流階級と団結させた」。ビーレフェルト大学の社会学者、アンドレアス・ツィック氏は公共放送ドイチェ・ヴェレでこう語った。「彼らを結束させたものは、この自由と抵抗のイデオロギーだった」
専門家は、過激派のなかに専門職の中流階級が大勢いるために、同集団は1970年代にドイツを恐怖に陥れた急進左派「ドイツ赤軍」よりはるかに大きな脅威になると指摘する。ドイツ社会民主党(SPD)の議員で刑事でもあるセバスティアン・フィードラー氏は「これは社会の主流派から誕生した一種のテロリズムだ」と語る。
「帝国主義」のたくらみ
ドイツ国民は7日の夜明けに国家転覆計画について知った。戦後ドイツの歴史上、過激主義に対する最大級の作戦と描写された一斉捜索で、約3000人の警察部隊がドイツ各地150カ所の施設を捜索し、25人を逮捕したというニュースが一斉に流れた。
捜査当局は、このグループが2021年1月6日のトランプ前米大統領の支持者らによる米連邦議会議事堂襲撃事件によく似た襲撃でドイツ連邦議会に押し入る計画だったとみている。議員や閣僚が手錠をかけられて逮捕され、ドイツ全土で暴動が起きたら、体制転覆への道が開けるともくろんでいた。
ネオナチなどの過激派組織に対する強制捜査は、ドイツでは目新しいことではない。20世紀の歴史を意識し、ドイツは極右の活動を取り締まる特別な責任があると感じている。
だが、多くのドイツ国民に衝撃を与えたのは、7日の捜索で逮捕された警察、ドイツ連邦軍の元メンバー、現役メンバーの数だった。捜索された施設には、連邦軍で精鋭の特殊部隊(KSK)の兵舎も含まれていた。
こうした要因は、あるトレンドを裏付けているようだった。ドイツの軍と法執行機関のメンバーが極右イデオロギーの訴求力に向かいやすいという憂慮すべき傾向だ。
誤情報や反ユダヤ主義、右翼過激主義について研究する非営利団体「監視・分析・戦略センター(CeMAS)」のピア・ランベルティ所長は「武器を使う訓練を受け、治安部隊の仕組みについて内部情報を持った人たちがそうした集団に加わり始めたのだとしたら、警戒すべきだ」と話す。「全く別の次元の脅威になる」
容疑者の1人は、2020~21年のコロナ対策の規制に反対した抗議集団「クエアデンカー」(普通の人と異なる考え方をする人の意)と関係がある元警官だった。別の容疑者2人は1990年代にともに連邦軍に従事し、後に一部がKSKに統合された「空挺大隊251部隊」に所属していた。もう1人はKSKそのものの現役メンバーで、部隊の兵たん部門で働く准士官だった。
ドイツの防衛関連の支配階層にとっては、こうした結びつきは極めて体面が悪い。KSKはかねて、一部兵士が抱く極右の見解について調べられてきたからだ。2020年には、あるKSK陸曹長の私有地で複数の銃や銃弾、爆発物、ナチス武装親衛隊(SS)の歌集が見つかった後、精鋭部隊の1ユニットが丸ごと解散された。
(下に続く)
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