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住宅ローン、長期返済のワナ 利息膨らみ老後に影響

老後資金にしわ寄せが出ないよう、返済計画を慎重に立てる必要がある。

「毎月の返済額を抑えたい需要に応えた」。住宅ローン専門金融機関のアルヒは5月、最長借入期間を従来の35年から40年に延ばした変動金利型の住宅ローンを投入した。30代前半までの世帯が建売住宅の購入時に使う例が多いという。住宅金融支援機構と民間金融機関が提携する固定金利の「フラット35」にも、長期優良住宅を対象に最長50年貸す商品がある。

借入期間は長期化している。住宅金融支援機構が金融機関を対象に実施した調査では、2019年度の新規貸し出しの約定貸出期間は平均27.0年。16年度の25.6年から1年半程度延びた。期間が25年以下全体は16年度の46%が19年度には32%と減少。一方、25年超は54%から68%へと増えた。

建築資材などの高騰で物件価格が上がり、住宅ローンの借入額が増えたことが背景にある。東京カンテイ(東京・品川)によると、22年9月までの首都圏新築マンションの平均価格は6501万円と、コロナ禍前の19年比で1割上昇。新築一戸建ても19年から約1割上がり、地方でも上昇傾向だ。

リクルートが首都圏を対象にした調査では、21年の新築分譲マンション購入契約者の住宅ローンの借入額は、平均4941万円と05年以降で最高だった。新築分譲一戸建ても4075万円に達する。

同じ金額を借りるなら、借入期間が短い方が支払利息が抑えられ、総返済額が少なく済む。借入期間が延びている一因は毎月の返済額を抑えるためとみられる。

一般に金融機関は住宅ローンの審査で一定の金利での年間返済額を年収で割った「返済比率」を見る。35%などの上限を超えると審査が厳しくなる。だが「35年ローンで希望額を貸せない場合に、期間を延ばし、借り入れ可能な額を増やすケースがある」(首都圏のローン取次業者)。毎月の返済額を抑えると返済比率が下がるためだ。

毎月の返済額を抑えるのは一つの解決策といえる。ただし、借入期間が長くなれば総返済額は増える。ニッセイ基礎研究所の福本勇樹金融調査室長は「長いローンは老後資金を逼迫させるリスクが高まる」と指摘する。例えば足元の金利水準で4000万円を固定金利で借りた場合、借入期間が35年(年1.65%)と50年(同2.3%)では総返済額に1000万円以上の差が出る。

退職金をあてにしている人も多いかもしれない。しかし、ファイナンシャルプランナー(FP)の畠中雅子氏は「ローン返済に充てられるのは退職金の4分の1程度まで」と助言する。仮に退職金を日々の生活費に充てずに済む場合でも、固定資産税や家の修繕費、冠婚葬祭費といった「特別支出」のために手を付けずに持っておく必要があるという。

最悪なのは定年を迎えた時点で住宅ローンの残債が多く、老後資金が枯渇してしまうこと。公認会計士で住宅ローンのコンサルティングもする中村岳広氏は「定年時にローンをいつでも完済できる手元資金を持つのが理想」と話す。

中村氏が住宅ローンを借りた人に勧めるのが現在と定年時の家計の貸借対照表(バランスシート)を作ることだ。バランスシートとは左に「資産」、右に「負債」を記し、左右の差額を「純資産」とする表。最もシンプルなやり方では、資産には現金などの金融資産とマイホームの価値、負債には住宅ローンを計上する。

例えば現金など500万円を持つ40歳が、4000万円の家を1割の頭金と住宅ローンで購入した場合。左側の資産はマイホームの価値3600万円(購入後に価値が1割下落したと想定)と現金など100万円。右側は住宅ローンの残り3600万円、純資産は100万円となる。

次に定年時のバランスシートを作成してみる。ローンを完済できて、老後資金も確保できる状態が目標だ。定年が65歳なら住宅ローンの残債は約1200万円。この額をいつでも返せるようにするには左側の金融資産は残債以上が必要だ。仮に現金など金融資産が2000万円あれば、その時点でローンを完済しても800万円が残る。マイホームの時価2000万円と合わせた2800万円が実質的な老後資金となる。

定年時に目指す金融資産の額を決めたら、現時点との差額を定年までの年数で割り、毎年必要な貯蓄額を考える。25年間で金融資産を2000万円にするには、ボーナスなどを活用して年45万円ずつ貯蓄し、月2万円ずつ積み立て投資(年2%で運用)をするといったことが必要になる。貯蓄などが難しければ、老後資金や定年後の働き方の見直しを考える。ローンを組む前なら、借入額を抑えることも選択肢だ。

定年時に金融資産が残債を下回ると老後は苦しい。仮に住宅を売りローンを完済しても老後資金にあたる純資産が少ないためだ。「70歳までに残債以上の金融資産を確保できない見通しなら繰り上げ返済などの検討が必要」とFPの有田美津子氏は話す。定年までの年数が短く、まとまった資金がなければ「毎月の返済額を増やして借入期間を短くする方法が一案」とFPの畠中氏は話している。

家の資産価値 保証する商品

定年時のバランスシートの作成では自宅の資産価値で迷うかもしれない。中村氏は「定年まで20~30年あるなら購入価格の5~7割が目安」と話す。資産価値が下がらず売却益が出る状態なら住み替えて老後資金を増やす選択肢もあるが、著しく価値が下がると老後の資産が減ってしまう。

自宅の価格下落リスクを避けるため、専用サービスを使う手もある。一般社団法人移住・住みかえ支援機構(JTI、東京・千代田)と日本住宅ローン(同・渋谷)が開発した商品は、大和ハウス工業といった住宅メーカーの耐久性や耐震性などの条件を満たす戸建て住宅が対象となる。物件を賃貸に出した場合に見込める収益などから算出した価値と残債から特定の時期を設定。その時期以降は残債と同額で買い取ってもらえる。死亡時に物件の売却などで残債を一括返済する前提で月々の返済額を大幅に減らす選択肢もあり、ローンの返済が厳しくなったときにも役立つ。

日本住宅ローンでフラット35などを借りる際に、JTIに手数料5万円(税別)を払うと契約できる。9月に契約した群馬県の会社員女性(48)は「完済時の夫の年齢は80歳。繰り上げ返済の計画はあるが、想定外の事態が起きた時の選択肢があった方がよいと考えた」と話している。

(川本和佳英)