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中国、不動産支援に63兆円 国有銀が相次ぎ融資枠 過剰債務は解決先送り

総額は3兆1950億元(約63兆円)を超える。9月末の融資残高の約2割強に相当し、信用危機に直面する不動産各社の経営に光明が差す。一方、過剰債務という構造問題の解決は先送りされる。

 

中国経済は、新型コロナウイルスを徹底的に封じ込める「ゼロコロナ」政策と厳しい不動産規制で深刻な打撃を受けた。だが、10月の共産党大会を経て3期目に入った習近平(シー・ジンピン)指導部は市民の抗議をきっかけに、ゼロコロナ政策の緩和を表明し、経済・社会の安定を重視する政策に転じた。景気を下支えする姿勢が鮮明だ。

「銀行と企業が力を合わせ、不動産市場の安定的で健全な発展を促す」。中国国有銀行最大手の中国工商銀行は、住宅最大手の碧桂園(カントリー・ガーデン・ホールディングス)など12社を対象に計6550億元を融資する方針を明らかにした。

発表を集計すると、主要国有銀行に大手地方銀行などを加えた融資枠は計3兆1950億元を超える。すべて実行されれば、中国の銀行の不動産開発融資残高は9月末の12兆6700億元から約25%増える計算になる。用途は不動産開発やM&A(合併・買収)だ。

国有銀行2位の中国建設銀行と同3位の中国農業銀行は具体的な融資枠を公表しておらず、総額はさらに拡大するとみられている。

中国の不動産会社の負債は、取引先へ支払うべき金額などを示す買掛金や、販売しても引き渡しを終えていない住宅の金額などを含む「契約債務」が多いのが特徴だ。碧桂園の場合、負債全体に占める銀行融資の割合は約1割にとどまる。3兆元を超える融資枠でも不動産業界が抱える深刻な債務問題をすぐに解決できるわけではない。

各銀行は不動産融資を絞り込んでいた。前向きに転換した背景には、中国政府が11月23日に公表した不動産市場への包括的な金融支援策がある。

支援策は「不動産融資の合理的かつ適切な水準の維持」を求め、半年以内に返済期限を迎える開発資金について1年間の期限先送りを認めた。先送りに際し、不良債権の認定など貸し出し区分を見直す必要はない。

中国政府は2020~21年、不動産会社が守るべき負債比率などを定めた「3つのレッドライン」規制、不動産融資に上限を設ける「総量規制」を打ち出したが、こうした規制強化策を修正した。

住宅の不振は深刻だ。不動産市場調査の克而瑞研究センターによると、売上高で上位100社の住宅販売総額は11月が前年同月比25.5%減だった。20年11月比ではほぼ半減した。中国の不動産業は、関連産業を含めると国内総生産(GDP)の3割前後を占めるとされる主要産業だ。住宅不況が長引き、財政や金融にも打撃が及んでいる。

党大会では、中国人民銀行(中央銀行)の党委書記と中国銀行保険監督管理委員会主席を兼務する郭樹清氏が党中央委員・候補委員から外れた。

金融業界では、新たに中央委員となった殷勇氏(北京市委員会副書記)や易会満氏(証券監督管理委員会主席)らが金融行政の主要なポストに就くとの見方が多い。金融行政は改革重視から安定重視に移る見通しで、不動産政策の調整もその一環だとみられている。

香港取引所に上場する中国の不動産株で構成するハンセン本土不動産指数は10月末につけた安値から9割超、上昇した。国有銀による不動産業界への支援が「資金繰りを改善する」(国金証券アナリスト)と、市場には歓迎ムードが広がる。