· 

三井不動産次期社長 植田俊氏 「お節介な大家」貫く

後継指名を受けたのは11月。覚悟があったわけではないが、菰田正信社長から「覚悟がないのは当たり前。だが、君の才能は保証する」と言われ、「退路を断たれた気持ちだった」と振り返る。「妄想に大義があれば、人が集まって構想になり、やがて実現される」をモットーに自由なアイデアで新時代の不動産経営に挑む。

近年は主力のビルディング事業を長く経験し、「保守本流」とみなされがちだが、約40年の会社員人生で本社に居たのは十数年だけ。バブル崩壊後には会社全体で抱えた1兆円以上の含み損の処理に追われるなか、現場社員を鼓舞しつつ厳しい仕事を耐え抜いた。菰田氏も「実行力や粘り強さは素晴らしい」と太鼓判を押す。

手掛けた仕事で注目を浴びたのが、創業の地、東京・日本橋の再生プロジェクトだ。江戸時代からの「薬の街」に着目。大手製薬会社の集積を生かし、スタートアップなどとの連携の場となる「ライフサイエンスの聖地」に育てた。今はライフサイエンスだけでなく、宇宙関連業界も集まり、日本橋は起業の街へ変貌をとげつつある。ライフサイエンスや宇宙は「ライフワーク」と言い切る。

単純な場所貸しだけでなく、企業と企業をつなぐ「お節介な大家」(植田氏)を貫く姿勢だ。「私だけでなく、(社員)みなが妄想をもってほしい」と鼓舞する。社内のベテラン社員は植田氏について「温厚な性格で、発想力が豊か。ゼロから形にする実行力がある」と評価。若手からは「フラットに話を聞いてくれる良き兄貴分」と慕われている。

京都市で生まれ育ち、ハンドボールなどで汗を流した。趣味は週に1~2度打ち込むゴルフ。「社長に指名されてからスコアがふるわない」と笑う。(欣)

 うえだ・たかし 1983年(昭58年)一橋大経卒、三井不動産入社。15年常務執行役員、20年取締役常務執行役員、21年取締役専務執行役員。京都府出身