· 

オリックス、高級旅館に注力 1泊10万円、まず国内富裕層 コロナ後の訪日客期待

国内の観光業界では富裕層を取り込むため、長期滞在をにらんだ客室改装に動く企業も増えている。客室稼働率の安定に寄与してきた中国人観光客の回復が見通せない中、今後は単価を重視した収益構造への転換が進む可能性もある。

オリックスは23年冬に最上級の旅館ブランド「佳ら久」を熱海市に開く。箱根に続く2カ所目。客室数は57室で一室の広さは平均50平方メートル。全室に露天風呂を設ける。1泊(2人利用)の平均価格は10万円前後の見込み。当初は国内観光客が中心だが、新型コロナウイルス禍の収束をにらみ訪日外国人旅行客も取り込んでいく。

運営会社のオリックス・ホテルマネジメントの似内隆晃社長は、高級旅館は新型コロナ禍でも需要が底堅かったと指摘。「中長期的に草津や有馬、湯布院などで運営施設を広げていきたい」と話す。富裕層以外も含めて今後は老朽化した他の旅館を取得・改装して自社の旅館ブランドで運営を受託する事業にも乗り出す。足元で会社全体の運営施設数は約6500室だが「10年内に1万室まで増やす」(似内氏)。

ビジネス利用が多い日本のホテルはコロナ前まで平均客室単価(ADR)より稼働率を重視する傾向にあった。米調査会社STRの6月の調査によると、日本は客室単価で10万円前後の高級~超高級ホテルの構成比が14%と米国や英国(いずれも約2割)より低い。これまで単価の引き上げは外資勢が先行してきたが、国内勢にも広がってきた。

ヒューリックも高級旅館「ふふ」を増やす。熱海や箱根、河口湖などで7施設を運営し、今後、軽井沢や城ケ島といったリゾート地にも建設。25年には東京・銀座で開業する。最も高い部屋は1泊約30万円で宿泊者全体の3分の1は訪日客を想定する。

パレスホテル東京(東京・千代田)は海外の富裕層や長期滞在客を見据え、1室あたり1泊28万円からの新たなスイートルームを3月に6室設けた。「稼働率は7~8割におさえてサービスの質を重視する」(吉原大介社長)。足元の外国人客比率は6割超で、12月のADRは7万5000円強で同月として売上高が過去最高になる見通し。

三井不動産は主力の「三井ガーデンホテル」の出店戦略を見直す。国内で約1万室を運営するが、従来は出張利用が中心で稼働率を重視し、狭い客室が多かった。今後、順次改装や新設を進め、レジャー利用や消費額の大きい訪日客の取り込みも目指す。

まず23年5月、横浜市・みなとみらい21地区の大型複合ビルに新規出店する。屋内と屋外にプールを設け、ジェットバスも用意。女性客や家族連れに照準を合わせ、スペースを広げた客室も30室設置した。24年秋に東京・築地に出店するホテルは全室に洗濯機や電子レンジなどを備え、長期滞在を好む外国人客の需要にも応える。既存施設はシングル利用を減らし、宿泊者専用のラウンジをつくるなどの改装を進める。

日本政府観光局(JNTO)によると、10月の訪日客数は9月比2.4倍の49万人だった。水際対策の緩和で回復への期待は高まるが、19年に比べると約2割の水準にとどまる。厳格なコロナ対策を打ち出す中国人観光客の戻りが鈍いためだ。政府は速やかにインバウンド消費をコロナ前以上の5兆円に引き上げる方針を掲げるが、今後、消費額増加へ課題となるのが1回の旅行で100万円以上の消費をする富裕層の取り込みだ。

JNTOによるとコロナ前の19年、訪日客3188万人のうち、米仏中など6カ国から来て100万円以上を消費した高額消費旅行者は28万7000人で訪日客全体の0.9%にとどまった。富裕層向けの宿泊施設が欧米に比べて少なく、地方にも上質な宿泊施設が不足。富裕層旅行に精通したガイド人材が足りないなど受け入れ体制の課題もある。

JNTOは22年1月に「高付加価値旅行推進室」を設置。ANAホールディングスなどは22年4月から富裕層の訪日客をもてなすトラベルデザイナーの育成に乗り出している。

(原欣宏、佐伯太朗、長田真美)