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Microsoftのメタバース戦略、買収リストで読み解く

ゲーム会社を続々と買収しており、2021年のゲーム関連事業の売上高は160億ドル(約2兆1800億円)以上になる。仮想空間で現実世界を再現する「デジタルツイン」などを通じて法人向けビジネスにつなげることも目指している。マイクロソフトのメタバース戦略を同社が買収、出資、提携した企業から探った。
日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。

米マイクロソフトは2022年1月、米ゲーム大手アクティビジョン・ブリザード(Activision Blizzard)を690億ドル近くで買収すると発表した。成立すれば、テクノロジー企業による過去最大の買収の一つになる。この買収により、没入感が強く双方向型のバーチャル(仮想)製品やデジタル体験によって繰り広げられる共通の仮想空間「メタバース」の土台を築く。

マイクロソフトは仮想世界にいち早く価値を見いだし、2014年には人気ゲームソフト「マインクラフト」を開発したスウェーデンのモヤンを25億ドルで買収した。21年のゲーム関連事業の売上高は160億ドルを超え、今や世界有数のゲーム会社になっている。

同社にはメタバースの構築や運営に必要な最先端のテクノロジーを開発できる資源がある。例えば、「ホロレンズ」は過去最大級の拡張現実(AR)プロジェクトだ。コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)のM12を通じ、人工知能(AI)やゲーム開発ツールに巨額の資金も投じている。

今回はCBインサイツのデータを活用し、マイクロソフトの過去4年間の買収や提携活動から同社がメタバース技術で重視している3つの分野についてまとめた。この3つの分野でのマイクロソフトとのビジネス関係に基づき、各社を分類した。

・ゲーム

・ゲームインフラ

・デジタルツイン

マイクロソフトのメタバース戦略図 (マイクロソフトが18年以降に買収、出資、提携した各分野の企業。ただし、その活動を網羅してはいない)

ゲーム

メタバースの現時点での主な用途の一つは仮想現実(VR)ゲームだ。ユーザーは没入型の環境を探検し、友人と交流し、バーチャルグッズを売買し、さらにはアバター(分身)や全く新たな仮想世界を構築できる。

マイクロソフトはここ4年、ゲーム帝国を築くために他社を積極的に買収している。18年には1日で独立したゲーム開発会社4社を買収した。

・米アンデッド・ラボ(Undead Labs):ゾンビサバイバルゲーム「ステート・オブ・ディケイ」を制作

・カナダのコンパルジョン・ゲームズ(Compulsion Games):パズルゲーム制作会社。ディストピア(反理想郷)のサバイバルゲーム「ウィー・ハッピー・フュー」を開発

・英プレイグラウンド・ゲームズ(Playground Games):レーシングゲーム「フォルツァ・ホライゾン」を手掛ける

・英ニンジャセオリー(Ninja Theory):心理スリラーゲームを開発

さらに20年9月には、絶大な人気と影響力を誇るゲーム「スカイリム」を手掛けた米ゼニマックス・メディア(Zenimax Media)を75億ドルで買収した。それから4カ月もたたずに、アクティビジョン・ブリザードの買収計画も発表した。この買収が成功すれば、マイクロソフトは売上高で世界最大のゲーム会社になる。

こうした買収により、マイクロソフトのゲーム開発部門「エックスボックス・ゲームスタジオ(Xbox Game Studios)」は勢いづいている。マイクロソフトはソニーグループに対抗し、圧倒的な競争力を築くため、据え置き型ゲーム機「Xbox」やパソコン専用のゲームを出す計画だ。エックスボックス・ゲームスタジオには現在20以上のゲーム開発スタジオがあり、マイクロソフトのゲームプラットフォームやゲーム機向けのコンテンツ開発に取り組んでいる。

ゲームインフラ

メタバースのもう一つの重要な要素は、こうしたゲームや体験の開発に必要となるソフトウエアだ。マイクロソフトはゲームインフラツールの開発と投資によって社内のゲーム開発ソフトウエアを強化できるほか、ゲーム開発会社に外販して収益も上げられる。

18年には多人数参加型ゲームのマッチメイキング(競技レベルに合わせた対戦相手の選定)、ゲーム内課金の決済処理、ゲームのエンゲージメント分析などの開発者向けツールを手掛けるスタートアップ、米プレイファブ(PlayFab)を買収した。

その2年後には、AIを活用してゲームのチャット機能でのヘイトスピーチ(憎悪表現)や嫌がらせを見つけ出すコンテンツモデレーション(投稿の管理)サービス、カナダのツーハット(Two Hat)を傘下に収めた。さらに、ゲーム対戦競技「eスポーツ」のイベントを見つけて参加できるプラットフォームを運営する米スマッシュgg(Smash.gg)も買収した。

マイクロソフトのゲーム開発者向けパッケージには、ソフトウエア開発プラットフォーム「ビジュアルスタジオ(Visual Studio)」やゲームサーバーをレンタルするためのクラウド基盤「アジュール(Azure)」など社内で開発した製品も含まれる。アジュールは特に強力なツールだ。

ゲーム開発エンジンの米ユニティ(Unity)は22年8月、マイクロソフトをクラウド提供事業者に選定した。両社は現在、ユニティが開発したゲームをマイクロソフトのゲームプラットフォームに置くために連携強化に取り組んでいる。同様に、セガはマイクロソフトと提携し、アジュールをクラウドコンピューティングに活用したり、ゲーム開発環境を整備したりしている。

マイクロソフトはゲーム開発体験を最適化するスタートアップへの投資も進めている。22年にはコンピューターが動かすゲーム内のキャラクター「NPC(ノンプレーヤーキャラクター)」を開発するため、画像などを自動生成する「ジェネレーティブAI」を手掛ける米インワールドAI(Inworld AI)のシリーズAラウンドに参加した。さらに、自社のサービス・製品を公表していないステルスモードのスタートアップ、イスラエルのKooplyのシードラウンドにも参加した。Kooplyはプログラミング知識が不要な「ノーコード」のゲーム開発者向けツールを開発しているとみられる。

デジタルツイン

デジタルツインは仮想空間に実際の物体やシステムを再現したモデルだ。あらゆるモノがネットにつながる「IoT」センサーやカメラなどで収集した現実社会のデータに基づいてつくられる。デジタルツインを支えるソフトウエアもメタバースで必要になる。

デジタルツインはメタバースの用途を娯楽やゲーム以外にも拡大する。例えば、研究者はすでにデジタルツインを海面水位の上昇による沿岸への影響や、エネルギー効率がさらに優れたオフィスビルなどのシミュレーションに活用している。

マイクロソフトは460億ドル近くに上るデジタルツイン市場を支配したいと考えている。同社のデジタルツイン基盤「アジュール・デジタルツインズ(Azure Digital Twins)」は多くの戦略パートナーを引き付けている。例えば、シミュレーションソフトウエア大手の米アンシスと米ベントレー・システムズとの提携により、正確な予測モデルと物理シミュレーターを開発している。

さらに、デジタルツイン基盤の商用利用も探っている。オーストラリアの産金大手ニュークレストは22年、自社の事業がどれほど環境に影響を及ぼしているかを理解するためにアジュール・デジタルツインズを活用した。同様に、マイクロソフトは22年7月、デジタルツインのスタートアップ、仏コスモテック(Cosmo Tech)と提携し、様々なシナリオが環境やサステナビリティー(持続可能性)の目標に及ぼす影響をシミュレーションした。

最近では社内の研究開発だけでなく、デジタルツインのスタートアップへの出資も進めている。21年11月には地理空間画像を使って地球の最新のデジタルツインを作成するオーストリアのブラックシャーク・ドット・AI(Blackshark.ai)と、自動運転車を訓練するシミュレーションソフトを開発する米アプライド・イントゥイション(Applied Intuition)に出資した。