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「いかに学ぶかを学ぶ」 フィンランド教育の鉄則 成長の未来図・第3部 北欧の現場から

世界でトップレベルといわれるフィンランドの教育政策。ポイントの一つに「いかに学ぶかを学ぶ」というものがある。それは大人になってからのリスキリング(学び直し)までを視野に入れた考え方だ。

 

偏差値はない

10月上旬。ヘルシンキ郊外のエスポー市にあるポホヨイス・タピオラ小学校をたずねた。

「ランプの温かさをエネルギーとして活用するにはどうしたらいいでしょう」

6年生の理科の授業。先生がお題を出すと児童たちが考え始める。どんな装置を用意すればいいか、その作り方の計画を立て、絵に描いてみんなに説明することをめざす。先生が教科書に書いてあることを教える授業と違い、子どもたちが自ら頭や手を動かさないと前に進まない。

別の教室では、宗教の時間で6年生の子どもたちが議論していた。フィンランドで主流のプロテスタントのルター派向けだ。

「いい人生ってなんだろう?」。教員のヘレナ・トンモラさんが問いかけると、「家庭を持つこと」「問題があるとき相談できる人がいること」と意見を言い合う。「仕事をすること」と言う児童に先生は「自分のやりたいことを自分で選べるかな。周りからプレッシャーはない?」と畳みかける。

「いい人生とは何か」を話し合うポホヨイス・タピオラ小学校の児童(フィンランド・エスポー)

正解がひとつではないテーマについて考え、言葉にする。ものごとを疑いながら議論し、アイデアを発展させることを奨励する。「いかに学ぶかを学ぶ」。学ぶ方法を身につけられれば、ずっと成長を続けられるというわけだ。

教員はみな修士

フィンランドでは小中学校で受験戦争や偏差値はなく、数字ではかれない力の習得に重点を置く。それだけ教員にとっては教えることの難易度が上がる。

教員のトンモラさんは「教え方はとても難しいが、教員たちはそれをやってのける」と話す。教員は「みな修士号を持つプロ」。小中学校でも教員は修士号が必須で、社会的にも重要な職業と位置づけられている。

小学校から歩いてすぐのポホヨイス・タピオラ保育園でも基本は同じだ。3歳の子どもにすら「自分で決める」ことを促す。壁に垂れ下がった複数のカードにはおもちゃや遊ぶ場所の写真がはられている。子どもは自分がしたい遊びのカードに自分の名前がついたクリップをはさむことで「自分はここで遊ぶよ」と伝える。

どこで何をして遊ぶか、子どもたちはカードに自分の名前のクリップをはさんで伝える(フィンランド・エスポー)

「子どもたちは遊びながら学ぶ。自分自身からも学ぶ」と園長のシニ・レッポさん。「その手助けのために大人は繊細に、巧みなやり方で子どもと接する必要がある」という。

リスキリングの土台

フィンランドの教育も昔からこうだったわけではない。ヘルシンキ大の岩竹美加子非常勤教授によると、1950年代ごろまでは規律を重んじ権威主義的だった。84年ごろまでは体罰もあった。

60年代から学生運動の高まりなどで権威的な教育が解体され始め、不景気に陥った90年代初めに大きな教育改革を実施。教科書検定制度を廃止したほか、授業時間数を柔軟に設定できるようにするなど自治体や学校の自由度を高めた。

社会人になってもリスキリングを重ねることを重視するフィンランド。「生涯学習の土台は幼児教育や初等教育にある」(リー・アンデルソン教育相)。ヘルシンキ市の計画には「『いかに学ぶかを学ぶ』スキルが生涯学習の基盤になる」といった表現がある。

ポホヨイス・タピオラ小学校の授業(フィンランド・エスポー)

義務教育、18歳まで引き上げ

フィンランドが昨年、義務教育年齢を16歳から18歳に引き上げたのも、社会人のリスキリングが念頭にある。将来の学び直しの土台を強くするため、より安定した学習環境を提供しようという狙いがある。教科書や教材を無償とするための予算は年間1億ユーロ超。反対もあったが、多くの経済学者や教育学者が改革を支持した。

ヘルシンキで取材に応じたアンデルソン教育相はインタビューでこう強調した。「社会で必要とされる知識が増え、世界中の国々が高等教育などに多額の投資をしている。フィンランドも教育レベルを確実に向上させる必要がある。社会には変わる責任がある」

(ダイバーシティエディター 天野由輝子)