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「GAFAは永遠」のバイアス 企業データは日本の好機 本社コメンテーター 中山淳史

8万人を超える人員削減が進む米IT(情報技術)産業。メタやアマゾン・ドット・コム、ツイッターだけでなく、ネットフリックスやショッピファイ、ペロトン・インタラクティブ、スナップ、コンパスなどがリストラ策を打ち出している。

IT企業の特徴は景気循環をはね返す強靱(きょうじん)さと成長力にあった。2008年から09年にかけ、リーマン・ショックで900万人近い米国の雇用が失われた時も、グーグル(現アルファベット傘下)とアマゾンは新規採用を続けた。そうした企業が景気循環の波にのまれるとしたら、「オールドIT」として伝統的産業に仲間入りする兆候だろうか。

成長曲線が「S字カーブ」に

22年4~6月期が終わった時点で、アマゾンの成長が加速から巡航速度に転じる「S字カーブ」現象が始まった、とこの欄で書いた。同じことが他の企業にも起きていた可能性が高い。

いわゆる「GAFA」の売上高を15年前の07年を起点に追ってみる。同年はリーマン・ショックの前年である一方、アップルがスマートフォン「iPhone」を発売した節目の年だ。

スマホはインターネットの世界と可能性を一段と広げ、21年までの14年間は年率平均でアルファベットが21.6%、アップルが21.5%、メタが60.7%、アマゾンが28.0%のペースで売上高を伸ばした。

一方、米アナリストが予想する22年の売上高見通しを21年実績と比べると、アルファベットは10.1%、アマゾンは8.8%の増加に減速。メタは1.6%の減少に転じる見通しだ。9月決算のアップルは7.8%の増加だった。

グラフにすると、各社とも21年までは指数関数的な成長曲線を描くが、22年は傾きが緩く、あるいは下向きになり、「S字」のように変形するケースが多い。高速成長を続ける企業にも天井は存在することを示すS字カーブの局面に入った可能性がある。

BtoBデータで伸びるマイクロソフト

もっとも、「GAFAM」というくくりでは違う風景もある。6月決算のマイクロソフトは22年、18.0%の増収だった。

07~21年の同社は増収率が平均8.9%。だが、14年に就任したサティア・ナデラ会長兼最高経営責任者(CEO)の進める構造改革がうまくいったのだろう。クラウドサービスが成長を引っ張り出し、売上高の半分を超えた。

顧客らと記念写真に納まる米マイクロソフトのナデラCEO(中)=11月16日、東京都渋谷区

これは重要な構造変化を映している。クラウドの成長は企業に由来するIoT(モノのインターネット)データなどが増えた結果だ。IT産業のけん引役は、スマホから発せられるBtoC(消費者向け)データではなくなりつつあることを示している。

調査会社の米IDCなどによれば、企業由来のBtoB(業務用)データは25年に110ゼタバイト(ゼタは1兆の10億倍)と、地球上のデータ量全体の63%にも達するという。BtoCは減少こそしないが、伸びが鈍化する。

GAFAの成長鈍化も電子商取引や広告などの市場が世界的に飽和しつつあることを印象づける。もっといえば、プラットフォーマー型ビジネスもBtoCに重心を置きすぎれば成熟化を助長し、BtoBへと重心を移す企業との間で成長力の差がつきやすくなるということだ。

プラットフォーマーに包囲網

では、BtoB時代の主役とはマイクロソフト、あるいはアマゾンのクラウド部門なのか。確かに勢いはある。だが、トヨタ自動車や独フォルクスワーゲン(VW)、米ボーイングが新車や航空機開発をクラウド上に移行したとしても、データはトヨタやVW、ボーイングのものだ。プラットフォーマーは空きスペースを貸す「倉庫業」に近い存在となり、かつてのように付加価値を独り占めしにくくなる。

気になる動きは外部にもある。GAFAを意識した規制、たとえば欧州連合(EU)が域内で23年に施行するとされる「デジタル市場法」はプラットフォーマーが顧客企業や個人に由来する情報を、第三者から生じた情報と合体させて新しいサービスを生み出すことに厳しい制限を設ける見通しだ。

他方、GAFAによる中央集権的なプラットフォームを介さずに決済などが可能になる「ウェブ3」という技術潮流も生まれ、包囲網は次第に広がりつつある。

指数関数カーブの成長を遂げた後は成熟化し、消滅する企業も出る。そんなサイクルは多くの分野で昔からみてきた光景でもある。カセットテープやビデオテープ・デッキ、パソコン、フロッピーディスク、DVDだけでなく、鉄道サービスやガソリン車の普及にもS字カーブは出現した。

生存者バイアスを脱してチャンスに

では、何年くらいで製品やサービスは成熟化するか。デジタル製品は20~40年。自動車や鉄道はもっと長いが、成熟化の宿命は人口や地政学上の限界が存在する限り、万物に平等だ。

「生存者バイアス」という言葉がある。激しい競争を生き残った生物や企業は「万能であり、繁栄も永遠に続く」ように感じてしまう錯覚だ。GAFAの歴史といってもここ20年のこと。成長スピードには変調もみえ、4社の常識が勝利の方程式ではなくなる日もいずれくるだろう。

日本企業は今、何をすべきか。企業発のデータ、とりわけ製造業由来のデータが世界で最も多いのは日本だ。BtoBデータの時代は日本の好機になると考え、新たな可能性に挑む時ではないか。