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不動産から見るアジア 脱「ゼロコロナ」で恩恵 ESR共同創設者・CEO スチュアート・ギブソン氏

香港上場でアジア最大の不動産アセットマネジメント会社、ESRのスチュアート・ギブソン共同創設者・最高経営責任者(CEO)に聞いた。

日韓で稼働99%

――大手ネット通販会社などが利用する物流施設を開発・運用しています。需要に変化はありますか。

「日本や韓国などで展開する当社の物流施設の稼働率は99%だ。世界経済の逆風にもかかわらず、事業の縮小は見られない。企業はより広いスペースを求めており、引き払う動きも出ていない。顧客である中国のアリババ集団や京東集団(JDドットコム)も通常通り賃料を支払っている」

――中国の「ゼロコロナ」政策の影響は。

「影響が大きいのはサプライチェーン(供給網)だ。労働者が工場に行けないと製品を造れず、それが他の業界に不可欠な部品ということもある。だが、中国はゼロコロナから徐々に抜け出すとみている。労働者が工場に戻り、生産が増え始めた。グローバルな供給網にプラスの効果をもたらすはずだ」

「香港は中国のよい実験台だ。規制を緩めた香港がこのまま開放を進め、より自由に渡航できるようになれば、中国も追随するはずだ。中国のコロナ規制は春節(旧正月)後に一段と緩和されるだろう」

消費財需要堅く

――中国の不動産市場が低迷しています。

「当社は大きな打撃を受けたオフィスや住宅の資産を保有していない。中国では消費が経済の大きな割合を占める。半導体不足でiPhone(アイフォーン)の製造に影響が出ることはあっても、一般消費財の需要は底堅い。物流施設やデータセンター、ライフサイエンス関連の施設に注力する」

「東南アジアではタイ、ベトナム、インドネシアで事業を展開し、堅調な成長が期待できる。中でも注目しているのがベトナムだ。若年人口が多く、ゼロコロナ政策を受けて半導体や一部の製造業が中国国外に移った際に恩恵を受けた」

――金利上昇は不動産投資信託(REIT)や私募ファンドに逆風です。

「調達コスト上昇という形で直接的な影響がある。しかし、足元ではインフレも進行している。オーストラリアや韓国、日本では賃料の上昇ペースが金利コストの増加分を上回り、影響を相殺できている」

「政府系ファンドや年金基金、保険会社などの投資家は、商業施設やオフィスへの投資を見直して、我々の強みとする物流施設やデータセンターに資金を再配分したいと考えている。東南アジア諸国連合(ASEAN)の再生可能エネルギーなどに投資するインフラファンドも立ち上げた」

――日本への投資は。

「日本で投資適格の物流施設は全体の10%ほどで、90%は老朽化している。投資機会は多い。大阪市など3カ所で今後の需要増が期待できるデータセンターの建設を進めている。横浜市で開発中のプロジェクトにライフサイエンスなどの研究開発拠点を誘致する構想もある」

(聞き手は香港=木原雄士)