暗号資産(仮想通貨)交換業大手FTXの破綻が連鎖している。仮想通貨を貸し付ける「融資業」の米ブロックファイが28日、日本の民事再生法に相当する連邦破産法11条(チャプター11)の適用を申請した。仮想通貨投資の利益を膨らませる「錬金術」を提供する融資業の破綻は、投機の急激な収縮や新たな破綻につながる可能性がある。
仮想通貨の融資は従来は交換業者が手掛けてきた。2018年ごろから専門業者が誕生し、新型コロナウイルス禍の投資ブームで急成長した。高い利回りで仮想通貨を「預金」のように集め、ヘッジファンドなど投資家に貸し出してきた。
融資業は仮想通貨への投資手法を広げるとともに、レバレッジ(借り入れによるてこ)を可能にした。
代表的なものが価格差に着目した「裁定取引」だ。FTX創業者サム・バンクマン・フリード氏もビットコインを借りて割高な韓国で売り、割安な米国で買って差額を収益とする「キムチ・プレミアム」を対象とした取引で名を上げた。
「預金」の利用者数で1位はスイスのNexo、ブロックファイは2位とみられる。21年末時点では当時3位だった米セルシウス・ネットワークを含めて約340億ドル(約4兆8000億円)の預金を集めていた。
もっとも、融資先の投資が行き詰まると回収できなくなる。融資業者が苦しくなると「預金者」も利回りを得られないどころか預けた仮想通貨が返ってこないリスクを負う。預金者に高利回りを約束しているため融資業の運用もリスクが高くなっていた。ブロックファイでは最大8.6%の利回りを約束していた。
今夏には仮想通貨が全面安となり、3位だったセルシウスは特定のファンドとの大口取引が引き金となり破綻した。同じファンドとの取引でブロックファイも損失を抱えFTXの金融支援を受けていたが、FTXの破綻がダメ押しとなった。融資業2位と3位が相次ぎ破綻したことになる。

次の破綻先として市場関係者が警戒するのが米グレースケール・インベストメンツ社が運用する仮想通貨最大の投資信託だ。ブロックファイやヘッジファンドなどが錬金術の舞台としてきた。
この投信はビットコインを預けて受益権と交換したり、現金で買ったりできる。仮想通貨の電子財布(ウォレット)を持たずにビットコインに投資ができるほぼ唯一の手段として評価され、基準価格がビットコインに比べて3~4割ほど高かった。ビットコインを借りて受益権にし、引き出しが可能になる半年後に売却してビットコインに戻せば、3~4割の差額を利益にできた。
ところが、競合商品の登場で上乗せ価格がなくなった。商品の優位性が乏しくなったほか、同じグループ内の融資業ジェネシス・グローバル・トレーディングが経営危機にあり、価格はビットコインに比べ4割ほど安くなった。
ジェネシスはFTXに資金を預け入れており、破綻の余波を受けたとみられる。親会社がグレースケールの投信を解散し、1兆円超に相当する約64万ビットコインが売られて価格が急落するのが最悪のシナリオだ。
QUICK・ファクトセットによると、テック株投資で著名なキャシー・ウッド氏のETFが関係者以外で最大の保有者だ。株式投資を主体とするファンドなどにも影響が及ぶ。
融資業は業務内容は銀行だが自己資本などの規制はない。預金者は一般の銀行預金者のようには保護されない。サービスが先行し、規制が遅れた形になった。交換業者が展開するレンディングも含め、厳しい規制の対象になるとみられる。
(金融工学エディター 小河愛実)
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