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苦境のAI新興、挽回策は? プリファード・西川CEO そこが知りたい

技術の普及で独自色を出しにくくなり、資金調達環境も世界的に悪化してきた。成長軌道に乗る挽回策はあるか――。AIスタートアップで、国内最大のユニコーン(企業価値が10億ドルを上回る未上場企業)でもあるプリファードネットワークス(東京・千代田)の西川徹最高経営責任者(CEO)に聞いた。

――AI技術の潮流をどう認識していますか。

「コモディティー(汎用)化する速度が上がっている。論文などで技術が公開され、特許にも期限がある。大企業向けの受託開発やコンサルティングサービスを提供しているだけでは事業は縮小するだろう。収益を稼げる自社サービスの構築が重要になる」

「技術は進化している。たとえば、ある物体を認識するAIをつくる際、人間がデータを学習させて形や色を教えていた。だが、大量のデータを学習したうえ、大規模な計算ができるようになった。最近はAIが未知の物体に対しても、試行錯誤しながら特徴を捉えていく。新しい段階に移ったといえる」

――その技術のビジネス機会はありますか。

「一つがメタバース(仮想空間)だ。現実の風景をCG(コンピューターグラフィックス)で再現するには、立体物を計算して質感を与える作業をデザイナーが担い、莫大な費用が掛かっている。複数のカメラで撮影した映像を基に、AIが未知の物体を含めて3Dモデルを作成できる。水の流れや半透明の布なども精緻に再現できる」

――新しい手法もコモディティー化しませんか。

「どんな技術もいずれコモディティー化する運命にはある。技術を有効に使い続けるには、AIの学習に使うデータと計算能力をいかに確保するかが重要となるだろう。データを持つ一部企業をコミュニティーに巻き込んだり、データをシミュレーションで作ったりする必要がある」

「クラウドやメモリーなどAIの計算に必要な資源の調達も難しくなっている。どの領域で戦うかを間違えなければ、米IT(情報技術)大手の『GAFA』がライバルでも勝てる可能性はある」

――エグジット(出口)戦略をどう描きますか。

「未上場企業としての資金調達は難しくなっている。大きな成長には大きな資金投入が必要で、新規株式公開(IPO)は手段としてあり得る。ただ、世界で戦えるプレーヤーになれないのであれば上場すべきではないと思っている」

にしかわ・とおる 東京大大学院に在籍していた2006年に前身企業を設立。07年同大学院修了。14年に前身企業からAI事業を独立させて現職に就く。東京都出身。40歳。

AI×スパコン、収益稼ぐ事業を

調査会社の米CBインサイツによると、世界のAIスタートアップの資金調達額は2022年1~9月に355億ドル(約4兆9000億円)と前年同期に比べ30%減った。AIブームが始まって約10年。期待感は一服している。

プリファードネットワークスはAIとその計算に使うスーパーコンピューターの両方を開発する点が評価されてきた。推計企業価値は約3500億円に達するが、19年から変わっていない。スパコンを組み合わせて「収益を稼げる自社サービス」を展開できるか。プリファードも真価を問われている。

(川原聡史)