――原油など一部の商品価格は上昇が一服しました。
「インフレは終わっていない。むしろ今後、もっと悪化するとみている。インフレの主因は、ロシアのウクライナ侵攻による供給網の分断や新型コロナウイルス禍の影響だ。電気自動車への移行で銅やリチウムの需要が高まるなど、時代の変化もある。現在の商品価格は調整局面に入ったにすぎず、調整を終えれば再び上げに転じる」
――米連邦準備理事会(FRB)の相次ぐ利上げの効果で、米消費者物価指数の上昇ペースはやや減速しました。
「利上げはまだまだ足りない。1970年代に激しいインフレが米国を襲った際、ボルカーFRB議長は政策金利を20%まで上げ、インフレを鎮圧した。当時の水準まで利上げする必要があるといっているわけではないが、今の政策金利はインフレを抑えるのに十分な水準ではない」
「だが、ボルカー氏が大幅利上げを断行できたのは、当時のカーター米大統領がインフレ対策を最優先に万策を尽くすよう求めたからだ。バイデン大統領は再選されることしか頭になく、不人気の利上げには及び腰だ。2023年にかけて、FRBは利上げのペースを減速するとみられている。人々は歓迎するだろうが、インフレの再来を招くことになる」
――インフレ下にとるべき投資戦略は。
「債券価格は前代未聞の高水準で、バブルを引き起こしている。不動産も多くの国でバブルの様相だ。将来値上がり益が期待できるとすれば、商品しかない。銀や砂糖は最高値よりはかなり下げており、検討に値する。インフレ局面の株式投資といえば、銅鉱山や油田など商品を生み出す資産をもつ企業の株が買いとされる」
――70~80年代の高インフレ期を投資家としてどのように乗り切ったのでしょうか。
「原油価格が高騰する中、我々は原油と石油関連企業の株式に投資した。思い切って資金を借り入れ、割安だった商品を買った。一方、実態を上回る高値だった銀行株や、英ポンドを空売りした。見立てが正しかったから利益を出せたが、誤っていたら投資家として終わっていただろう」

――中国経済への関心が高いようですが、米中の対立、不動産不況やゼロコロナ政策などで環境は大きく変化しました。
「中国が21世紀に最も重要で成功する国になるという考えは全く変わっていない。超大国となる国が、その成長の途上で問題に直面するのは当たり前だ。米国もその道をたどったし、中国も多くの困難が待っているだろう。その1つが不動産バブルだ。長期間で大きく膨らみ、まさに今、破裂している。難局はしばらく続くだろう。しかし危機こそ投資のチャンスだということを忘れてはならない」
「政治家は国内の状況が悪化すると、外国に責任をなすりつけるものだ。トランプ前大統領の中国たたきを、バイデン大統領もほぼ踏襲し、それに中国が対抗している。米中関係は当面悪化したままだろう」
――日本はインフレが進むなか金融緩和を継続し、円安が進みました。
「今まで円安にならなかったことのほうが驚きだ。日銀は無制限の国債購入などの金融緩和を長期間継続しており、通貨が下がるのは当たり前だ。日銀総裁はこれが日本の競争力にプラスと考えているようだが、輸入品のインフレで生活は苦しくなる。すぐに金融緩和をやめ、金利を上げるべきだ。日本の今の金利水準はばかげている。国債の価格もいずれ急落するだろう」
米国出身。1970年ごろにジョージ・ソロス氏とヘッジファンドの先駆け、クォンタム・ファンドを設立。世界を旅しながら投資する「冒険投資家」としても知られる。2007年からシンガポールに居住。
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