これまで運用に関心がなく、資産は預貯金のみ。老後資金のメドはある程度立っているが、長い老後を考えると少しでも上積みしたいという。
積み立て投資で資産形成に取り組む人は増えている。運用先で人気なのが米国株や全世界株など海外株の指数(インデックス)に連動する投資信託で、長期で運用すると報われやすい。仮に日本株が過去最高値だった1989年末から2022年10月まで、代表的な全世界株指数であるMSCI ACWI(日本含む、円ベース、配当込み)の連動投信に月3万円投資できていたら、資産は元本1185万円の5倍の約5900万円になっていた。個人投資家の中には実際に海外株投信に積み立てを続け、資産が1億円を超えた「億り人」も現れている。
では50歳からだと遅いのか。株式中心の積み立て投資で一定の成果を出すには、15~20年程度の運用期間が必要とされることが多い。50歳で始めると65~70歳程度までだが、60歳以降も定年再雇用などで働く人は増えている。2021年時点で男性の就業率は60代前半で83%、後半でも60%に達する。収入の中から長期の積み立てをできる人も少なくないだろう。
運用を始める前に再確認したいのは積み立て投資以外に、まとまった資金で一度に購入する一括投資という方法もあることだ。どちらが資産をより増やせるかは投資対象の値動きによる。バブル崩壊後の日本株のように長期低迷が続いた後で価格が上向いたケースでは、一括投資より積み立ての方が効率的に増やせた。途中の安い時期にも買い続けることで平均購入単価を下げられるためだ。
しかし過去の全世界株のように上昇基調が続いた資産なら、最初の時点での一括投資が有利だった。例えば月3万円の積み立ての元本1185万円を89年末時点で全世界株投信に一括投資できていた場合、資産は約1億930万円になっていた。
様々な投資対象の今後の値動きが過去の日本株のように積み立てが有利か、あるいは全世界株のように一括が有利かはわからない。ただ世界全体では今後も人口増や生活水準の上昇などで経済規模は拡大を続けそうで、株式は長期的には価格上昇が期待できる。
89年当時は利益水準に比べ非常に割高だった日本株も「2010年前後ごろから適正水準となり、利益増に合わせて株価が上がる資本市場に戻っている」(ニッセイ基礎研究所の井出真吾氏)。今後は日本株も一括投資の対象の一部として検討対象になり得る。
では50歳から20年間運用するとどれくらいの資産が見込めるかを試算しよう。全世界株のインデックス型投信と一部債券に投資し、運用利回りは年3%と想定する。89年末以降の全世界株の通算利回りは年約7%だったが、リスクを抑えることを考慮した。
まず月3万円ずつ積み立てをすると、資産額は985万円と元本720万円の約4割増となる。一方、元本720万円を50歳で一括投資すれば資産額は約1300万円で、積み立てを約8割上回る。ただ株式などリスク資産への投資では当面使う予定のない余裕資金を充てるのが基本。中高年では余裕資金を預貯金で眠らせたままのことも多いが、50歳で720万円を一括投資するほど余力のある人は限られそうだ。
そこで選択肢となるのが積み立て投資と可能な額での一括投資を併用する方法だ。例えば余裕資金が300万円あり一括投資で年3%で運用できれば、20年後に約540万円になる。月3万円の積み立ての資産と合わせると約1525万円で、50歳で720万円を一括投資するより多くなる。手元に多額の資金がなくても、積み立てと組み合わせた20年後の元本が1020万円と大きくなるためだ。
ただし一括投資は株価の上昇局面で大量に買う「高値づかみ」のリスクがある。PER(株価収益率)など様々な投資指標で割高でないか吟味することが重要だ。一括とはいえ全て一時期に買う必要はなく、年に3~4回ずつ3年程度に分けて買うのも一案になる。その時々で話題のテーマの商品は投資家の関心が薄れると価格が急落しやすいうえ手数料が高いものが多い。広く分散した低コスト投信ならこうしたリスクを抑えられる。(編集委員 田村正之)
コメントをお書きください