アニメ映画「君の名は。」などで知られ、新作「すずめの戸締まり」が公開中の国民的アニメ作家、新海誠の創作について解き明かした。アニメの配給や映画祭に携わりながら、学術的にも研究してきた経験を生かし、「新海誠を日本から剥がして、世界アニメ史の中に位置づけようとした」。
新海は、宮崎駿や庵野秀明らとは異なり、大きなスタジオに所属したことがない「異端児」とされてきた。出世作となった2002年の短編「ほしのこえ」はほぼ一人でつくったものだ。「個人作家のアニメを扱ってきた自分が、新海誠について書くのは自然だった」と自任する。
というのも、大学院では短編アニメの世界的巨匠、ロシアのユーリー・ノルシュテインを研究。それを契機にアニメ配給会社を設立し、世界のインディペンデント作品を紹介してきた。その視点でみると、新海のようにスタッフに頼りながら多くの作業を一人でこなす「巨大な個人制作」は世界では珍しくないという。
個人作家は制作費や時間などのリソースが限られるので、偏って配分せざるを得ない。新海の場合、キャラクターを簡略化して背景に注力した。その抽象さゆえに観客は新海作品を様々に読み解くことができ、新海自身も観客が見たいものを作品に取り入れるため「観客と監督のインタラクション(相互作用)が生まれている」とみる。
さらに新海作品について「一つの物語を語っているようで色々なテーマがあり、見る度に印象が変わる」魅力もあるという。
新海は「スケールが大きくなり続ける作家」と指摘する。「定評を得た人は普通、作品の世界観を安定させていく。新海誠は一貫した作家性があるものの、それを捨てて観客の期待にも応えられる。『すずめの戸締まり』でも震災や天皇といった繊細なテーマを扱うなど、挑戦し続けている」。変わりゆく新海誠の一面を捉えた本になった。(集英社新書・990円)
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