家族や友人と過ごすため年明けに帰国し、春に世界一周の旅に出る計画だ。結婚したら子供に英語を身につけさせるため、永住権の取得しやすいカナダで会計士になろうかと考えている。「複数の国に拠点を置き、その時々に行きたい国を選びたい。リモート勤務が当たり前になったので難しくはないと思う」
国境をまたいだ生き方はコロナ前から拡大傾向にある。国立社会保障・人口問題研究所の是川夕国際関係部長によると、経済協力開発機構(OECD)諸国への労働目的での移住は永住型が2019年に67万人だったのに対し、一時滞在型は131万人と約2倍。12年の1.6倍に増えた。

「労働目的の移民は今や永住型より一時滞在型が主流。その傾向は年々強まっている」。是川部長は指摘する。
永住型移民に警戒感 受け入れ拡大であつれき
背景には永住型への警戒感がある。11年のシリア危機などで欧州各国に移民・難民が流入。一部の国民とあつれきが生じ、反移民を掲げる右派勢力が台頭した。各国の共生政策を比較した移民統合政策指数(MIPEX)でトップのスウェーデンも、9月の議会選で極右政党が躍進した。
「各国とも受け入れを拡大すれば政権への反発が高まりかねない。一方で労働力は必要。結果として季節労働者やワーキングホリデーなどで、一時的な移民を受け入れる動きが強まった」(是川部長)。日本でも単純労働者は受け入れない建前とは裏腹に、実習や留学を名目にした労働力確保が進む。
従来の法制度は国民の定住を前提としてきた。一時滞在型の住民が増えれば、既存のシステムとのズレが目立ってくる。
年金で〝払い損〟 資格が通じないことも
一例が年金だ。出身国と移住先の国で協定などがなければ両国から保険料負担を求められる恐れがある。日本では外国人の帰国後に払い戻す制度があるが、6カ月未満で帰国した場合や5年以上日本で働いた場合などは〝払い損〟が発生し得る。
出身国での学歴や職業経験も国境をまたげば評価されにくくなる。欧州連合(EU)内では母国で取得した資格を他国でも同等と認める相互認証の制度があり、医師や看護師などの資格が自動承認されるが、こうした動きは一部にとどまる。
家族の分断という問題も生じる。オーストラリアやニュージーランドではトンガなど周辺諸国からの出稼ぎ労働者が農業を支えるが、夫婦関係の破綻や子どもへの影響などが指摘されている。
移民労働者や支援団体への聞き取り調査を行ったオーストラリア国立大のマット・ウィターズ講師は「最悪のケースでは大人が外国に出稼ぎに行った結果、少女らが家事や育児、介護を担うようになり学校に通えないという問題も起きている」と説明する。
成蹊大の宮井健志・客員准教授は一時的な移住者向けの法・社会的保護策の整備が遅れていると指摘。「国境をまたいで年金資産を持ち運べる仕組みづくりや送金の円滑化などに多国間で取り組む必要がある」とみる。

「移民がいなければ人口減少や高齢化が予想よりさらに進むだろう」。国連は00年の報告書で指摘した。出生率向上や生産性向上とともに、国外の労働力をいかに引き付けるかが各国の課題だ。
発展途上国も高齢化が進み、若い働き手は世界で取り合いになる。だが円安が加速する日本は移民獲得の競争力を失いつつある。一時滞在する外国人も同じ国に暮らす「家族」として受け入れ、不利益を生じさせない制度に変える覚悟がなければ、人口減とともに沈む国になりかねない。
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