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「ITに資格なんていらない」 若手は真に受けるべきか

「資格なんていらないよ。それよりも愚直に目の前の業務に取り組むべきだ」。記者が20代でIT(情報技術)の現場にいた頃、システムエンジニア(SE)歴の長い先輩社員から言われた言葉だ。SNS(交流サイト)でも「資格不要論」を度々目にしてきた。同じような状況に覚えのある読者も少なくないのではないか。

特に先輩がやり玉に挙げたのは情報処理推進機構(IPA)が運営する基本情報技術者試験(FE)だ。IPA自ら「ITエンジニアの登竜門」を称するFEだが、合格していなくてもSEやプログラマー、プロジェクトマネジャーにさえなれる。IT業界には資格がなければできない独占業務は存在しないからだ。

先輩の言うとおり、「FEなどいらない」のだろうか。IT業界での経験と記者として見聞きしてきた情報を基に考えてみた。

「FEなんていらない」は玉虫色の言葉

まず意識しておくべきは、「FEなどいらない」は発言者の立場や状況により意味合いを変える、玉虫色の言葉だということだ。上司に取得を勧められ合格したが業務で役立てる機会がなかった人と、自身が過去に合格できなかったことからやっかみ交じりで否定する人とでは、発言の裏に隠れる思いは随分と違ったものになるはずだ。

発言者のレイヤーによっても意味合いは変わってくる。高度な専門性が求められる業務に就く人にとっては、「FE程度の知識」では役に立たないという意味を含むかもしれない。

逆に知識や専門性を必要としない業務に単なる作業者として携わる人にとっても、この言葉は真実であろう。目の前の作業をこなすのに必要のない知識を使う機会がないからだ。

ゆえにまずはその人がどういった立場で「いらない」と言っているのか、考えることが重要だ。自身が目標とするような人なのか、もしくは反面教師のような人なのか。年次はどうか、試験に合格した上での発言なのか。言葉の裏の思いについて考えてみることは、FEへの合格が自身にとっても不要なのか否か判断する上で有用な材料となるだろう。

「FE合格」の効力は限定的

記者は自身がFEに合格しつつも、FE合格という「ライセンス」はIT業界で生きる上で全く必要ないと考えている。それさえあれば一人前の技術者として認められるほどに効力を持つものではないし、FEに合格していなければ入社できない、あるいは昇格できないという企業も少ない。

実際、記者が2022年10月に大手システムインテグレーション(SI)企業10社を対象に実施した「資格の活用」に関する調査では、FEを昇格の判断材料や加点要素にするとした企業はSCSKTISの2社だけであった。

採用においてはFEだけでなく資格そのものを評価しないとする企業も多く、FEレベルの資格を評価したり参考情報にしたりすると回答した企業はBIPROGY(ビプロジー、旧日本ユニシス)とSCSKの2社にとどまった。

大手SI企業においてFEの合格を昇格を判断する材料にしたり、採用で加点したりするのはごく一部にとどまる。調査対象はBIPROGY、伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)、NEC、NTTデータ、SCSK、TIS、日本IBM、野村総合研究所、日立製作所、富士通の10社(作成:日経クロステック)

調査の対象とした大手SIは、多重下請け構造のSI業界において最も高いレイヤーに属する企業群であり、人材に求めるレベルも当然高くなる。対象を二次請け、三次請け以降の企業に広げればFE合格者を重用するような企業が増える可能性はあるだろう。だが少なくとも、業界最大手の企業群において目を見張るような効果を発揮するわけではなさそうだ。

「FE程度の知識」はなければ恥をかく

一方、ライセンスが不要だからといって、FEに合格できるだけの知識も不要だということにはならない。FEの出題範囲は数学理論やプログラミング、システム開発手法に法務といった領域まで幅広い。合格するためにはITに関する広く浅く、体系的な知識が必要となる。

確かにこれらの知識は、目先の業務において必ずしも活用するものではないかもしれない。例えば駆け出しのウェブエンジニアが、業務に就いてすぐ「知的財産権」に関する知識を使うことは少ないだろう。システムインテグレーター(SIer)で金融機関向けのプロジェクトに配属された新入社員が、「組み込みシステムにおける機器の制御方法」に関する知識を生かせる場面も限られるはずだ。

だがそれだけで不要と切り捨てるのは早計だ。立場が上がり顧客や自社の経営層に対し説明責任を果たさねばならなくなった場面で、開発や運用で視野を広げて課題の解決策を探る場面で、IT全般の体系的な知識は必ず役に立つ。逆になければ恥をかくような場面さえある。

実際記者にも、ITの現場で基本的な知識がないことで顧客との会話がかみ合わず恥をかく場面があった。記者が基本情報技術者試験を受けたのは、IT業界に入って5年以上たってからだ。

きちんと勉強をして試験を受け、合格してからは顧客や上司が何を話しているのか全く分からない、という場面は少なくなった。深くは理解できずとも、どういった領域のどのような種類の技術について話しているのかまでは想像できるようになった。

そうした経験からも、知識を習得するための最短経路として、FEの勉強をするのは有意義だと考えている。試験に合格することで、実際にその知識を収められたという確認もできる。

ことはFEだけに限らない。試験勉強の目的は合格に足る知識を身につけることである。勉強の結果おまけとして合格証がついてくるという程度に考えれば、多くの資格勉強は「いらない」ものでなく、有意義なものとなる。

(日経クロステック/日経NETWORK 大川原拓磨)

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コメント: 1
  • #1

    ひで (火曜日, 22 11月 2022 14:01)

    BIPROGYがITパスポートを評価するとは意外でした。これ合格すると自分はデジタル人材だと勘違いされては困る。入社後は事前に申請して合格すると基本以上は報奨金がでるが、無届けではでない仕組みでした。初級シスアドはどこへいったのか。