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見抜かれるMBO 受け皿会社で推測 先回り買いも 監視委、異例の注意喚起

インサイダー規制などには抵触しないが、証券取引等監視委員会(監視委)は「市場の公正性をゆがめかねない」と問題視。異例の注意喚起に踏み切った。MBOを見抜かれにくい工夫などを呼びかけている。

 

「発想はすごいが、ずる賢い」。監視委が10月に公表した注意喚起をみて、ある個人投資家はうなった。

タイトルは「MBOの実施に伴い設立される新会社(SPC)について」。MBOでは、対象企業の株を買い付ける受け皿としてSPCが設立されることがある。そのSPCの社名や所在地などから上場会社との関連性を読み取り「近くMBOが行われる」と推測される例があると、関係者に注意を呼びかけている。

MBOの買い付け価格は直近の平均株価に3~5割のプレミアム(上乗せ幅)が乗ることも多い。発表前に対象企業の株式を買えば、プレミアム分程度の利益を得られることになる。

通常は一般投資家が公表前にMBOの予定を知ることはできない。だが監視委などによると、一部の投資家はインターネットなどを通じて新設の法人情報を探り、社名や所在地、代表者などが既存の上場企業と類似するものに注目。「MBOのための受け皿会社が準備された」と推測して公表前に株式を買い付け、公表後に売って利益を得ていた。複数の銘柄で同様の動きがあり「1億円を超える利益を得た例もあった」(監視委関係者)という。

MBOの公表前に株価が上昇した例も最近みられる。2021年にMBOを公表したアパレル企業の場合、SPC設立からMBO公表までの約1カ月間で、株価が18%上昇。別の不動産企業の場合も15%上昇した。両社の株が実際に先回り買いされたかは不明だが、いずれも対象会社とSPCとの間に、所在地や名称などの類似点があった。

「違法ではない」

ただ、これらの手法で先回り買いをしてもインサイダー取引などには該当せず「違法ではない」というのが専門家の一致した見方だ。監視委幹部も「当初はインサイダー取引に該当する可能性があるとみて調べたが金融商品取引法(金商法)が定める公開買い付け者等関係者などとの接点が見つからなかった」と話す。

金商法に詳しい木目田裕弁護士は「MBOを行おうとする社長などから会社登記を確認するよう勧められ、その情報をもとに株を購入した場合ならインサイダー取引規制の対象になる可能性がある。だがそうした行為が全くない場合は規制の対象外だろう」とみる。

違法ではないのに監視委が「注意喚起」したのは、市場への悪影響を懸念したためだ。監視委幹部は「こうした手法でもうけている投資家が増えれば、他の投資家が『ずるい』と不満を持つなど、市場の公正性が疑われかねない」と話す。

先回り買いで株価が上がれば、買収コストが増える恐れもある。MBOの実務に詳しい飛岡和明弁護士は「直近の株価と比べたプレミアムが小さくなると、特別委員会や株主の反対などでMBOが失敗するリスクもある」とみる。

監視委幹部は「少しの注意で問題は解消できる」と指摘する。具体策として、(1)SPCの名称を対象企業と類推されにくいようにする(2)所在地を同一にしない(3)一時的に外部のアドバイザーなどを代表者にする(4)SPC設立からMBO発表までの期間を短くする、などが考えられるという。

インサイダー規制をかいくぐって、公表前の重要情報を察知しようとする投資家はあとを絶たない。

13年には複数の上場企業の重要情報が各社のサイトで公表前に閲覧可能な状態となっていたことが発覚した。過去に掲載された情報のURLの一部を書き換えて打ち込むことで、公表前の決算資料などにアクセスできるというものだった。

評判低下の恐れ

未公開資料をもとに株を売買し利益を得た投資家もおり、監視委なども調査。だが規制対象となる企業関係者から情報を伝達されたわけではないなどとして、金商法違反(インサイダー取引)容疑での立件は断念した経緯がある。

M&A(合併・買収)助言のレコフによると、MBOによる非上場化の件数は21年に19件と、11年(21件)以来10年ぶりの多さだった。22年は10月末時点で11件となっており、依然として活発な動きがみられる。

SPCの新設情報を独自に調べてMBOを予測するのは、投資家の努力ともいえる。一方でMBOをする側のワキの甘さから公表前に簡単に見抜かれるようでは、「重要情報が外部に漏れているのでは」との誤解を招き、その企業や証券市場の評判が下がる恐れもある。不要なリスクを是正する取り組みが重要となる。

(宮川克也、高橋彩)