個人の選択に社会の制度や価値観が与える影響は大きい。世界で人口減少にあらがう国の多くは、多様な生き方を認め、世の中全体で助け合う寛容な社会をつくろうとしている。(関連記事を人口と世界アンケート特集に)
37種類に分類
デンマークの人口統計では家族の形を37種類に分類する。子供からみた家族形態は夫婦同居・夫の連れ子同居・妻の連れ子同居など多様だ。配偶関係も異性同士の法律婚だけでなく、同性法律婚・登録パートナーシップなど5種類ある。
コペンハーゲン在住の看護師クリスティーネさんは、警察官の夫、子供3人と暮らす。子の1人は夫婦の実子で、残る2人は夫婦それぞれの過去のパートナーとの子だ。
夫妻ともに最初のパートナーとは結婚しなかったが「法律婚はさして重要ではなかった」(クリスティーネさん)。子供に関する手当や保育サービスは家族形態と関係なく受けられるためだ。

パートナーと別れても関係は続く。クリスティーネさんの子、ニコライさんが15歳のとき、教会で信仰を誓う儀式に出席。ニコライさんの実父や配偶者ら多くの「家族」が集まり成長を祝った。夫婦は過去のパートナーと頻繁に連絡し、子供の教育や進路を話し合う。
京都ノートルダム女子大の青木加奈子准教授は「ライフスタイルの多様化に対応しつつ、未来を担う子供の視点で支援制度が見直されてきた」と指摘する。
多様な家族を認める社会は、親子のあり方にも寛容だ。「伝統的家族主義が弱い国ほど出生率が高い」と大妻女子大の阪井裕一郎准教授は分析する。家族の多様化を示す1つの指標は、結婚していない男女から産まれた「婚外子」の割合だ。
事実婚やシングルマザーなど様々な親子がいるが、婚外子の割合が高いほど家族のかたちにかかわらず子供を産めるといえる。低いほど伝統的な家族観に基づき、結婚と出産の結びつきが強い。
デンマークやフランスの婚外子割合は1960年に10%を下回っていたが、2017年時点で5割を超す。ほとんどの行政サービスは法律婚と男女の同居を区別せず、出生率も1.7超だ。
日本の婚外子割合は2%強と韓国と並び最も低い水準だ。伝統的家族観から多様化が進まず、広がったのは未婚化だった。日本で配偶者がいない50歳代は3割を超す。出生率は回復せず、21年の人口は64万人減った。
6歳の息子と夕食の準備、遊園地に家族旅行――。スウェーデンに住む中村光雄さん(通称みっつん)は、そんな家族の日常を動画投稿サイト「ユーチューブ」で発信する。チャンネルの登録数は19万人に達する。
人気の背景は中村さん家族にパパが2人いることだ。中村さんのパートナーはスウェーデン出身の男性、リカルド・ブレンバルさん。息子は米国のサロガシー(代理母出産)で授かった。「スウェーデンではどのような家族も平等に生活できる」と中村さんは話す。
GDP上昇も
性的少数者の国際支援組織ILGAによると、北欧や米英、ドイツなど多くの先進国が同性カップルの養子受け入れを認めている。日本は主要7カ国(G7)で唯一、同性パートナーシップを認める国の制度がなく、特別養子縁組も婚姻関係のある男女に限られる。
同性婚を認めれば少子化がすぐ改善するわけではないが、誰もが住みやすい社会は成長の源だ。
米マサチューセッツ大学アマースト校のリー・バジェット氏らは、性的少数者を受け入れる社会を測る8段階の指標をつくり、132カ国を分類。1ポイント上がると1人あたり国内総生産(GDP)が約2000ドル上昇する関係があったという。
子供を産みにくくする旧来常識は婚姻だけではない。家事の負担を巡る男女間の不平等、キャリアと子育ての両立、多様な生き方を抑圧する風潮――。当たり前を問い直し、家族観と制度をアップデートしなければ、深刻な少子化から抜け出すヒントはつかめない。
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「人口と世界」第5部は人口減の背景にある家族や個人の選択を追う。
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