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選手村マンション、まるで「宝くじ」 最高倍率191倍

日経ヴェリタスの名物コーナー、金融記者座談会の「放電塔」。東京五輪・選手村跡地のマンション「ハルミフラッグ」の6度目の売り出しに、実需も投資も集まった様子について話し合いました。

D 東京五輪の選手村跡地のマンション「ハルミフラッグ」、7日に抽選会があったらしいね。

H 今回が6度目の販売で、売り出した230戸すべてに申し込みが入った。平均倍率はおよそ30倍。最高倍率はなんと191倍で、約7000万円の4LDKの住戸のようだ。当たる確率は0.5%程度。ちょっとした宝くじだよ。

Y 最高倍率の住戸は坪単価が約260万円。立地条件が違うとはいえ、周辺の晴海や勝どきは中古でも坪400万円以上する物件が珍しくないから、割安さが際立つ。「マンションマニア」の名前で活動する住宅評論家の星直人氏は「当選すれば3000万円の『含み益』は固い」としている。ほかの住戸も坪300万円未満が多く、中古で売ったら2~3割の値上がりが期待できるという。そりゃ申し込みが殺到するわけだ。

G 安いのには理由がある。最近は共働き世帯を中心に駅前・駅近物件が人気なのに対し、ハルミフラッグは最寄り駅から徒歩20分前後。周辺に学習塾などの子育て施設が十分にそろうかも不透明で、東京都中央区の物件といえども利便性は高くない。管理費などのランニングコストも普通のマンションより多くかかる。住まい選びで本来大事な「暮らしやすさ」という面では不利な部分もある。

F ただ2019年夏の販売開始当時と比べて都区部のマンション相場が1~2割ほど高くなる一方、ハルミフラッグは単価がそれほど変わっていないようだ。もともと土地の仕入れ値が安い影響もあって価格は低めだったけど、相対的な割安感が一段と強まっている。

「ハルミフラッグ」(手前)は周辺の物件に比べ割安感がある

D 割安なら投資家も買ったのかな。

H 「ふじふじ太」名義で活動するマンションアドバイザーの藤田祥吾氏は「購入相談者の2~3割は投資目的」と証言している。物件が引き渡される予定の24年春には、転売住戸が中古市場に大量に出回るかもしれない。

O 今回の販売では対面なら申し込める戸数に制限はなく、オンラインでも3戸まで可能だった。当選した住戸は全部買う必要があり、子会社が売り主に名を連ねる三井不動産は「顧客が購入できる範囲内で登録している」と説明する。ただ会社経営者など資金力のある人ならたくさん申し込める。投資家が高い倍率をさらに押し上げているとの見方は拭い切れない。

S 割を食うのは実需層だ。埼玉県の賃貸住宅に住んでいる30代女性は2LDKの住戸に申し込んだけど抽選は外れた。「当初検討していた住戸より低い倍率の住戸に乗り換えたのに…」と落胆している。投資家有利の状況になりやすいだけに、藤田氏は「販売方法に問題がある」と苦言を呈していたよ。

H ほかのマンションでは投資目的の購入に制限をつけるケースもある。三井不の子会社などが分譲している千葉市の「幕張ベイパーク ミッドスクエアタワー」は購入してすぐ転売するのを防ぐため、分譲主が「契約締結日もしくは入居開始日から5年間に限り買い戻しができる」という趣旨の特約を設定している。実際に発動するのは難しいという見方もあるけれど、星氏は「多少なりとも転売防止につながっている」と評価していた。東京カンテイのデータによると平均坪単価は235万円程度と低めで、ハルミフラッグの抽選に外れた場合の選択肢としても人気があるらしい。

O 東京建物などが分譲している「ブリリアシティ石神井公園アトラス」も一定面積以上の住戸について、賃貸用など投資目的での購入はできないとしている。古い団地の建て替え物件で、東京都から補助金を受けている関係でこういう制約が付いているんだって。東京カンテイによると坪単価も270万円程度とこなれている。

S ただこうしたマンションは例外的だ。投資需要も巻き込めば高値で売れる新築物件が多いから、デベロッパー側には購入者を制限する動機は本来働きにくい。初めてマンションを買う1次取得者にとっては厳しい状況だ。

Y かつてのバブル期には不動産価格の急上昇で「今買わないと家を買えなくなる」という恐怖心が消費者に生まれ、郊外の土地まで人気が過熱した。当時と状況はかなり違うし、ハルミフラッグは資産性も期待できるとはいえ、選択肢が狭まるなかでの人気ぶりはバブルをほうふつとさせる面もある。マンション相場が崩れる気配はまだないけれど、先行きを楽観しすぎないほうが良いかもね。

[日経ヴェリタス2022年11月13日号掲載]