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ツイッター、メタが大量解雇 テック企業の迷走に学ぶ 教えて山本さん!BizTech基礎講座

波乱(はらん)万丈の展開で世間を騒がせていた米ツイッター買収劇ですが、イーロン・マスク氏による買収が完了した直後からさらなる混迷の展開を見せています。2022年のテクノロジー業界を激震させた一連の騒動を簡単に振り返ってみましょう。

マスク氏は4月にツイッターの筆頭株主となり、取締役に就任する予定になったものの、わずか数日後には就任を辞退しました。さらに数日後、マスク氏が申し出た買収提案にツイッター社側も合意したのに、5月には買収手続きを一時保留にすると発表。買収撤回は不当だとするツイッター社が提訴するなどの双方による応酬を経て、10月27日にようやくマスク氏によるツイッター社の買収が完了しました。

米ツイッターのオフィスに入る従業員(9日、ニューヨーク)=ロイター

その後も買収が成立した日のうちにマスク氏は最高経営責任者(CEO)のパラグ・アグラワル氏をはじめ取締役全員を一斉に解任しました。11月には上場廃止して全世界の従業員の約半数を解雇したうえに、リモート勤務の禁止や、ユーザーに提供する有料の公式アカウントのラベルの取り扱いなど、矢継ぎ早に大胆な改革に乗り出しました。

これらは世間の賛否両論を巻き起こしています。マスク氏本人も「多くのばかげたことを試し、うまくいかないものは取りやめる」とツイッターですでに宣言しているように、ツイッターをめぐる騒動は向こう数カ月は続くでしょう。

しかし「世界の最も正確な情報源になる」という新しいミッションを掲げて「倒産もありえる」と危機感も共有したうえで、スタートアップ企業のように泊まり込みも辞さないスピード感で意思決定をしてみせました。単なる場当たり的な実験ではなく、ミッションの方向性を見失わないようにしつつ、新たな経営戦略の模索につなげようとしているのでしょう。

米メタも初の大量レイオフへ

一方、フェイスブックの親会社であるメタプラットフォームズも経営の不安定ぶりが浮き彫りになっています。マスク氏の買収完了とほぼ同時期に、メタのマーク・ザッカーバーグCEOは従業員の約13%にあたる1万1000人のレイオフ(一時解雇)を発表しました。

米カリフォルニア州マウンテンビューのメタプラットフォームズ本社前(11月9日)=ロイター

2四半期連続の減収となった同社が初の大幅な人員削減に踏み切った背景には、メタバースへの巨額投資がふるわない現状が大きく影響しているとみられます。日本はまだメタバースへの熱狂の渦中にあるかもしれませんが、米国ではすでにWeb3やメタバース(仮想空間)への熱気は下火になりつつあるからです。

混迷を深めるツイッターと、苦戦を強いられるメタ。巨大プラットフォームを擁する2社がどのような生き残りの道を探っているのか、まだ明らかになっていません。両社に共通する弱点をひとつ挙げるのであれば、「自社固有のテクノロジーの弱さ」があるのではないでしょうか。

例えば米グーグルであれば検索エンジンのアルゴリズムという強力な武器があります。米アマゾン・ドット・コムはもともとテクノロジーに強い方ではなかったのですが、大手クラウドサービスのアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)は世界シェアトップに成長しています。

ところが、ツイッターとメタのプロダクトに目を向けると、自社にしかない固有のテクノロジーが豊富にあるわけではありません。フェイスブックは04年、ツイッターは06年、メタ傘下に入った米インスタグラムは2010年にそれぞれ誕生していますが、革新的なテクノロジーというよりも、ユーザーインターフェースによる差別化が急成長を促してきました。テック企業が次なるステージへと進化していくためには、それを支えるための革新的なテクノロジーを開発するか、買収などによって自社に取り込む戦略が欠かせないのです。

また、メタの場合はフェイスブックからメタへと社名を変更したこともあり、後には引きにくい状況であるという事情もあります。ある意味、メンツが潰れることが嫌だから引き際の見極めができない。これは日本の大企業にも見られるケースでしょう。

どれだけ赤字であっても社長肝煎りのプロジェクトだから打ち切れない、という事例を見聞きすることはいまだに珍しくありません。通常の企業であればガバナンスが働いて株主の圧力で社長交代につながることもありますが、種類株を活用しているメタは株を保有しても議決権にはつながらないため、CEOの交代は議会など株主以外の圧力が働いて辞任に追い込まれない限り起きにくいことになります。

これは業績が好調な場合や社長が長期的に正しい方向性にビジョンを持っている場合には有効ですが、逆の場合には自浄作用が弱まります。

早期撤退がうまいアマゾン

ちなみにメタとは対照的に、早期撤退が抜群にうまいのはアマゾンでしょう。自社ブランドの携帯電話「FirePhone」や星4つ以上の商品を並べたリアル店舗の展開など、さまざまな領域に手を広げながらも、うまくいきそうにない兆候があれば数カ月単位でひっそりと撤退する。アマゾン経済圏ともいえる巨大エコシステムを構築してきた背景には、そうした無数の試行錯誤がありました。

それぞれの撤退サービスは無駄ではなく、その経験があるからこそ、次の仮説を立てる際の精度やサービスの品質が高まっているのです。市場環境やテクノロジーが発達したことで、同じコンセプトを再度別の形で試すことによりサービスが普及することもあります。

対してツイッターに関していえば、買収前の企業としての不調は組織の自浄作用がなくなってきていたことが原因の一つでしょう。創業者が離れてしまったために、米テック業界で優秀なエンジニアがツイッター社に入社した、という話を聞くことは少なくなっていました。

株主からのプレッシャーも、ウェブテクノロジーのように先行きが見通しづらい業界では効果を発揮しにくいのです。企業再生の手腕で知られる伝統的なプライベートエクイティファンドも、これまでの業界ノウハウなどが活用できる分野に注力しやすいため、ツイッターの経営に乗り出したところで黒字転換や増収増益によって企業価値の大幅上昇が期待できるような投資妙味を感じにくいのが現実です。

そういう意味では、自らもヘビーなツイッターユーザーであり、プロダクトの潜在能力を心の底から信じて先端技術にも精通し、そして将来の採算見通しに縛られずツイッターの買収に約6兆円以上もの資金を投資できるマスク氏が行動したということは非常にまれなケースです。ビジネスのケーススタディーとして今後に大きな示唆を与えてくれます。

危機にあるツイッターとメタの現状とその背景をひもといてみることは、業種を問わずあらゆるビジネスパーソンにとって多くの学びが得られるはずです。円安という一時的な外部要因による好決算に浮かれている場合ではありません。

山本康正(やまもと・やすまさ)
京都大学大学院総合生存学館特任准教授
東京大学修士号取得後、米ニューヨークの金融機関に就職。ハーバード大学大学院で理学修士号を取得。卒業後グーグルに入社し、フィンテックや人工知能(AI)などで日本企業のデジタル活用を推進。京都大学大学院総合生存学館特任准教授、同経営管理大学院客員教授。著書に『次のテクノロジーで世界はどう変わるのか』(講談社現代新書)、『2025年を制覇する破壊的企業』(SB新書)がある。