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アートバーゼルとアートウィーク東京が提携 収集家誘致

3日午後6時、東京国立近代美術館(東京・千代田)。一度閉まった門が再び開き、黒塗りの車やバスが次々と吸い込まれていった。開催中の「大竹伸朗展」を鑑賞する「プライベートビューイング」と、カクテルパーティーに参加する人々だ。日本人に加え、アートバーゼルが海外から招いた100人以上のコレクターが集まった。大竹本人も登場し、出展作を解説した。

6日まで開催されたアートウィーク東京の「VIPプログラム」の一つだ。国立新美術館(同・港)や森美術館(同)などでも同様のプログラムが催された。

アートバーゼルは、スイス・バーゼルで毎年6月に開催される世界最大級の現代美術見本市だ。1970年に始まり、現在は米マイアミビーチや香港でも開かれる。「アートバーゼルのネットワークによって東京のアートシーンを国際的に発信し、世界からトップコレクターを迎えて市場の活性化を目指す」。アートウィーク東京の蜷川敦子ディレクターは50以上の美術館やギャラリーが参加したイベントの狙いを話す。

様々な美術展やイベントがある東京だが、海外からは「いつ行ったらいいかタイミングが見えにくかった」(森美術館の片岡真実館長)。海外では例年3月に香港、6月にスイスでアートバーゼル、10月にロンドンでフリーズなど、大規模見本市に合わせ、美術館やギャラリーが目玉を用意し、世界中のコレクターや美術関係者を呼び寄せる。

日本には2005年に始まった「アートフェア東京」があるが、国際的な認知度は高くない。「世界のアートカレンダーに東京を根付かせることが重要」(片岡館長)。

美術品の世界市場における日本のシェアは3%程度と小さい。政府は成長余地が見込めるとして段階的に取引を促進する制度を導入してきた。減価償却できる美術品の取得価格の上限を引き上げ、重要文化財級は美術館などに寄託し続ければ相続税の80%を納税猶予できるようにした。

美術品収集への関心は高まってきたが、海外の富裕層へのアプローチは出遅れている。たとえば9月にフリーズを初開催した韓国・ソウルには有力ギャラリーが進出し、美術を軸に「ヒト・モノ・カネ」が集まる好循環が生じている。日本でも国内コレクターの裾野拡大に加え、海外の富裕層を引き付ける体制整備が欠かせない。

一方で健全な市場育成には、美術関係者からの一層の情報発信が必要だ。現代アートの相場は上昇傾向で、投資目的の購入を勧誘する事業者も増えている。しかし「全てが値上がりするわけではないし、現状では不動産や株式のように資産価値を査定しにくい。値上がり益だけを求めるなら決してお勧めできる商品ではない」(大手金融機関幹部)。リスクは高く、90年代のイトマン事件のように不正取引や詐欺に利用されやすい面もある。

美術市場にも詳しい公認会計士の田中靖浩氏は「有望市場であるほど、投機目的のマネーが流れ込み、完全に排除するのは難しい。美術品への『愛ある投資家』を増やすために、美術関係者がコレクターや市民との対話を積み重ね、皆で考えていくしかない」と指摘する。

(岩本文枝)