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新海誠監督が語る新作アニメ「すずめの戸締まり」

災いの元となる「扉」を閉めていく少女の冒険を通し、閉塞感漂う日本が「次に進む場所」を見つけることを願う物語だ。

すれ違う男女を緻密で美しい風景の中で描いた「君の名は。」(2016年)、異常気象のもとで少年少女が懸命に生きる「天気の子」(19年)と立て続けにヒットを飛ばし、日本アニメ界をけん引する存在になった新海監督。映画の舞台あいさつなどで全国を回る中、「さびしい風景が増えた」と感じたことが新作の構想につながった。

にぎわいが消えたシャッター通り、閉鎖して野ざらしの大型施設などは今や見慣れた光景になってしまった。長野県で建築業を営む監督の実家がかつて手がけた建物の中にも「誰も住まなくなり、周りも緑や動物ばかりという場所が少なくない」という。

「家や団地などを建てる時には地鎮祭をするが、終わる時には何もしない。お葬式で亡くなった人を悼むのであれば、人がいなくなった場所を悼む物語はどうかと考えた」。思い浮かんだのは廃虚を巡って場所を鎮め、カギを閉める行為。「今つくるのなら扉を開くのではなく、閉じる物語。きちんと閉じ、次に進むべき場所を見つけるものにしたいと思った」と振り返る。

「すずめの戸締まり」の場面©2022「すずめの戸締まり」製作委員会

主人公は九州で叔母と暮らす17歳の女子高校生、鈴芽(すずめ)(声・原菜乃華)。旅の青年、草太(声・松村北斗)と出会い、廃れた温泉街で不思議な扉を見つける。災いを引き起こすという扉が日本各地で開き始め、鈴芽は、ある出来事で小さな椅子に姿を変えられた「閉じ師」の草太と四国、関西、東京、東北へと扉を閉じる冒険に旅立つ。

古来、日本列島に甚大な被害をもたらしてきた自然災害に目を向けた。「振り返ると、この10年、東日本大震災のことを考えながらものづくりを続けてきたような気がする。『君の名は。』には、千二百年に一度訪れて災害をおこす彗星(すいせい)が登場するが、これは震災を念頭にしたメタファー(隠喩)」と明かす。そのうえで「震災で感じた衝撃をメタファーとして描き続けるのではなく、直接手を触れる(表現する)ことを今ならできる、今やらなければならない、という気持ちになった」と説明する。

背景には「震災の記憶が遠のくことへの恐れ」がある。「僕の娘は12歳で、『君の名は。』の彗星が震災のメタファーとは分からない。でも震災はそれほど昔の出来事ではない。今も多くの人たちの気持ちの中に生々しく残っており、作品に描けば10代の彼らとも記憶を共有できるし、今ならまだ間に合う」

もっとも、震災を描くことで「誰かを傷つけてしまうのは本意ではない」と話す。映画の前に小説を出版して物語を明らかにするなど、事前告知に注意を払うよう努めたという。

映画に登場する、愛らしい風貌ながら恐ろしい現実を言い放つ謎のネコ、ダイジンは桜の樹をイメージした自然の象徴でもある。「被災地や、コロナ禍で人のいなくなった街でも桜は咲き誇る。人間の都合に無関心だが、圧倒的に美しく、噓をつかない」。草太が小さな椅子に変えられる発想は「コロナ禍で閉じ込められた感覚」から生まれたという。人があらがうことの難しい自然の力、無常観を感じさせつつ物語は進む。

コロナ禍の中で感じたのは「先進国と思っていた日本が世界から取り残され、立ち止まっている部分もあるということだった」という。「それでも僕たちはこの場所に住み続け、風土への愛情もある」。そんな思いを新作に込めた。

つくり終えて思うのは「かつての自分は社会的な出来事が横たわる映画をつくる人間ではなかった」との感慨だ。若い男女の切ない恋愛を描いた「秒速5センチメートル」(07年)や「言の葉の庭」(13年)のように、「電車に乗ったりコンビニに入ったり、ささやかな日常での感情の動きを描いてきた」。だが、今は「以前の自分とは違う場所に来たんだなと思う」。

来年2月で50歳。「赤い糸伝説のような恋愛は、僕よりも若い人の方が強度をもって描ける。年をとるということはそういうことだし、僕自身も変わっていく。自分が一番うまく描けるテーマをふさわしい時期につくる。それが僕にとって幸せなこと」と語る。

(関原のり子)