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8割が投資未経験、社会人教育こそ急務 金融教育を考える(6) 野村資本市場研究所に聞く

「貯蓄から投資へ」を促す政策が実現する条件は全世代にすそ野を広げることであり、とりわけ投資未経験の社会人を取り残さないことだ。最終回となる連載第6回は野村資本市場研究所の関雄太常務に聞いた。

(聞き手は手塚悟史、金融エディター 玉木淳)

――現在の問題意識を教えてください。

「日本の成年人口は1億人強だが、約2割しか株式など有価証券を保有していない。未経験の人にも投資家になってもらうことが重要だ」

「学習指導要領が変わり、学生に対しての金融教育の取り組みは徐々に積極的になっている。そうすると、金融教育を経験しないまま社会に出た人が投資の始め方を知らないという問題が相対的に深刻になる。資産所得倍増プランではそうした穴も塞がなければならない」

「現役世代の問題点として時間的、経済的な余裕がないことや成功体験を持っていないことが共通にある。ただ、社会人になったタイミングによって、証券市場へのイメージや資産運用に対する考え方は大きく異なる。特にアベノミクスが始まった前後では相当認識に差がある。実効性を高めるためには、世代別に分けてソリューションを提供していく必要がある」

――社会人向け金融教育の現状と課題は。

「金融業界は従来の金融教育に対するイメージを変えようとチャレンジしている。投資の原則である長期・分散・積み立ての浸透を図ろうと、金融庁も含めて徐々に統一感のあるコンテンツが出てきている」

「ここから先の課題は2つある。1つ目は教育を提供すべき対象に適切に提供できていない点だ。職場での活用は首都圏が本社の大企業ならともかく、地方や中小企業だと金融教育に接する機会が極端に少なくなる。学校教育と異なり、双方向のコミュニケーションができずにいつまでたっても実践までいかない。コンテンツを受け取って理解し、口座を開設して積み立てNISAをはじめるといったところまで一貫してできるのが理想だ」

「2つ目は世代間格差だ。長期・分散・積み立ては若い世代の人ほどメリットがある。定年が近づき、給与が減ってくる年齢層にとって、今さら毎月積み立ててくださいと言われても嫌悪感につながる可能性がある。特に団塊ジュニア世代や就職氷河期世代といわれた人たちが徐々にそういった年齢に入るなかで、長期・分散・積み立てを強調しすぎることには慎重にならないといけない」

――世代別の資産形成において、海外で参考にすべき事例はあるか。

「アメリカでは確定拠出年金制度『401K』を柔軟に運用している。非課税で積み立てられる枠をおおらかに設定している。20代、30代では上限まで掛けることができなくても、住宅ローンや子供の教育費の負担に余裕が出てくる40代後半あたりになってからあと10年ほど思い切った使い方ができる制度になっている。日本の税制にはややそぐわない面があるが、世代別に応じた資産形成の課題を解決するうえでは興味深い取り組みだ」

――社会人の資産形成をどのように進めていけばよいか。

「世界の潮流は2つある。『完全自助努力型』と自助努力といいながら自動的にラインに誘導する『自助努力公助型』だ。現在の日本には後者が必要だが、ポイントを絞る必要がある。大企業であれば、新人研修のときに適切に情報を提供したうえで、その場で半ば強制的に申込書にサインさせて積み立てが始まるといったことが考えられる。中途採用でも同様だ」

「イギリスには金融教育を推進する公的な機関がある。日本でもこうした機関を設立するのは一つの手だ。担当者が特に支援の行き届きにくい中小企業におもむき、経営者へ提案を行う、従業員からの質問に答えるといったことが考えられる。人間ドックと同様に、定期的に金融リテラシーをチェックする『お金の健康診断』を展開することも資産形成の促進に向けては一考に値する」

――金融教育に対する問題意識が高まっている。

「以前は証券投資は怖いものといったイメージを持つ人が多く、また提供する側も投資に関する知識を適切に提供し切れていなかった。学校の教職員にも金融機関や専門の職員が生徒に教えることに心理的な抵抗が根強くあった」

「今は金融教育の重要性が全体的に浸透し始めている。教職員からはもっと以前から教えるべきだったという声も聞こえてくる。プロ側も長期・分散・積み立てに集中して情報提供しようと試みている。教育界の取り組みが積極化していけば、劇的に変わる可能性がある」

「金融機関の役割は社会課題を解決することだ。その点でも金融教育の重要性は増している。以前はビジネスになるかならないかで揺れていたので、金融教育に力が入る時期もあれば入らない時期もあった。それではいけない。徐々に金融機関側の意識も変わってきているが、『資産所得倍増プラン』を一つのきっかけに大きなモメンタムにしていくことが目標だ」

関雄太 せき・ゆうた
1990年(平2年)慶応法卒、野村総合研究所入社。04年野村資本市場研究所へ移籍。ニューヨーク駐在や執行役員などを経て、21年4月より現職。