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ソフトバンクG、最終黒字でもファンドは苦戦 7~9月

最終黒字は3四半期ぶり。中国・アリババ集団の株式放出による一連の取引で差し引き約4兆3000億円の利益を計上したことが影響した。

一方で人工知能(AI)関連の新興企業に投資するビジョン・ファンドは赤字が続く。世界が金利上昇局面に転じるなか、低利で巨額資金を調達し、高リスクの企業に振り向ける投資手法が通用しにくくなっている。

11日に都内で開いた記者会見で孫正義会長兼社長は「上場株も未上場株もほぼ全滅に近い。ビジョン・ファンドも大変苦しんでいる」と語った。そのうえで決算発表の場に登場するのはこれが最後とした。傘下の英半導体設計大手アームを巡り、「今後数年はアームの爆発的な成長に没頭する」ことを理由に挙げた。

SBGは保有するアリババ株をデリバティブ(金融派生商品)の一種である先渡し売買契約に差し出して資金調達していたが、9月までに一部を現物決済することで手放した。将来の利払い負担の削減など財務面ではプラスになる。ただ約4兆3000億円の利益は会計上にすぎず、現金収入はない。アリババへの出資比率は9月末で14.6%まで低下した。

投資会社化したSBGはビジョン・ファンドの好不調が業績を左右する。投資先企業の株安が響き、7~9月期の税引き前損益は約1兆円の赤字だった。ファンド事業の赤字は3四半期連続だ。ビジョン・ファンドは9月末時点で世界の新興企業472社に投資している。

ファンド運用を開始した17年からみた累計の投資損益は22年7~9月期に14億ドル(約2000億円)の損失に転じた。663億ドルの利益を上げていた21年前半のピークからの価値低下が著しい。

ビジョン・ファンドの投資環境の悪化は長期化する恐れがある。世界的な金利上昇を受けて新興企業は資金調達が厳しくなり、リストラや破綻も相次ぐ。直近も暗号資産(仮想通貨)交換業大手のFTXトレーディングの資金繰りが行き詰まった。SBGはファンドを通じてFTXに1億ドル弱を投資しており、損失計上は必至だ。

SBGは守りを一段と固めている。保有株の売却などで手元流動性は9月末時点で約4兆3000億円ある。今後4年間に予定する社債の償還額(約4兆1000億円)をまかなえる水準だ。後藤芳光・最高財務責任者(CFO)は11日の会見で「財務はこれまでで最も安定している」と語った。

成長戦略が行き詰まるなかで、SBGが望みをつなぐのはアームの新規株式公開(IPO)だ。アームは半導体の設計で圧倒的なシェアを持ち、「ものすごい技術革新がある」(孫氏)。円安効果もあり、アームの4~9月期の売上高は1837億円と前年同期比14%増えた。10月にはアームと韓国サムスン電子の戦略提携について話し合うために、孫氏が韓国を訪問した。

ただパソコンやスマートフォンなどの需要失速で半導体市況は急速に悪化している。SBGは11日、当初計画していた22年度中の上場を断念し、23年中を目指す方針を明らかにした。

SBGの事業は金融緩和の長期化に依存してきた面が強い。ビジョン・ファンドが活動を始めた17年時点で米長期金利は2%程度だったが、世界的な金利上昇への転換で足元では4%程度まで上昇している。低利で資金を調達し、よりリスクの高い投資に振り向けるモデルは限界を迎えつつある。SBGが次の成長をどこに求めるか視界が一段と不良になっている。