· 

[FT]米国で「ホワイトカラー不況」懸念 中間管理職削減

米企業の中間管理職にレイオフ(一時解雇)の波が押し寄せ、米国は「ホワイトカラー・リセッション(景気後退)」に向かっているとの懸念がエコノミストや人材サービス会社の間で広がっている。

 

過去の景気下降局面では、建設労働者やトラック運転手などブルーカラーの働き手が最初に職を失う傾向にあった。だが今回、米企業はオフィスで働く中間管理職の人員削減に焦点を合わせている。

この数週間、ウォルマート、フォード・モーター、ギャップのほか、オンライン不動産情報のジロー・グループ、工具大手スタンレー・ブラック・アンド・デッカーなど、数々の米企業が本社での人員削減を発表している。

米ミルケン研究所のエコノミスト、ウィリアム・リー氏は、新型コロナウイルス禍から経済が回復する過程で専門職の採用をできる限り増やした企業が現在、中間管理職に必要以上の人員、あるいは人件費を賄えない規模の人員を抱えているのではないかとみる。

解雇された中間管理職の再就職支援(アウトプレースメント)を専門とする米雇用コンサルティング会社チャレンジャー・グレイ・アンド・クリスマスによると、人減らしは2カ月前から増えている。

「誰を切るかという嫌な決断を迫られた場合、まず高給に目がつけられる」と同社シニアバイスプレジデントのアンディ・チャレンジャー氏は言う。

過去よりホワイトカラーへの影響大

ここ1年余り、レイオフは過去最少に近い水準で推移してきたが、一部のエコノミストは、チャレンジャー社で確認されている人減らしの動きは「ホワイトカラー・リセッション」の兆候ではないかとみている。オフィスで働く中間管理職の人員削減が、製造やサービス、運輸などの現場の働き手よりも急ピッチで進む現象だ。

「今回は金利の上昇と株価の下落が主要な原因となっているため、過去の景気後退よりもホワイトカラーの働き手への影響が大きくなると言われている」と話すのは米人材サービス会社ジップリクルーターのチーフエコノミスト、ジュリア・ポラック氏だ。

「ブルーカラーは今も人手不足の状態なのだから、そもそも働き手が足りておらず人員削減などできない業種が多い」

米大手会計事務所KPMGの調査リポートによると、米企業経営者の半数以上が景気後退の可能性を見込んで、今後6カ月の間に人員整理を行うことを検討している。

「景気後退入りした場合にホワイトカラーの働き手が最初に解雇されることになっても、私は少しも驚かない」と話すのは人事管理関連ソフトウエアを手掛けるUKGのバイスプレジデント、デーブ・ギルバートソン氏だ。

米マサチューセッツ州でセブンイレブンの店舗に掲げられた従業員募集の告知。小売業や物流業の現場では人手不足が続いている=ロイター

「レイオフの状況をみると、ブルーカラーの労働市場にはまだ及んでいない。ブルーカラーの職種は深刻な人手不足だからだ」

一方、専門職の人員を多く抱えるシリコンバレーやウォール街の企業は余剰人員の整理を急いでいる。米動画配信大手ネットフリックスは2022年に入ってからほぼ500人をレイオフした。直近では9月にアニメーション部門のスタッフを30人減らした。写真加工共有アプリ「スナップチャット」を運営する米スナップは、8月に従業員の20%に相当する約1300人を削減した。

4日には、起業家のイーロン・マスク氏が買収した米ソーシャルメディア大手ツイッターで数千人の従業員を解雇。同氏は人員削減に取りかかる前から、中間管理職を減らすと表明していた。「プログラムを書く人1人に対し10人の『管理職』がいるようだ」。「チーフ・ツイット」を自称するマスク氏はツイッターでこう投稿していた。

フェイスブックなどを運営する米メタも初めての大規模なレイオフを計画していると、米紙ウォール・ストリート・ジャーナルが7日に報じた。

米金融大手ゴールドマン・サックスでは7月にデニス・コールマン最高財務責任者(CFO)が、コロナ禍で中断していた従業員の年次業績評価を「おそらく年末に復活させることになるだろう」と語っている。

利上げによる景気後退懸念が引き金に

3月の利上げ開始を受けて、住宅販売が急減速したため、不動産や住宅ローン仲介、不動産鑑定などの業界でも人員整理が広がっている。

対照的にブルーカラーの労働者や、レジャー・接客サービスのような給与水準が低い業種の人たちの解雇はそれほど顕著ではない。

20年3月にコロナ危機が起きて、最初に職を失ったのは小売店やレストラン、ホテルなどで働く低賃金の人たちだった。ところが、今はそうした職種は人手不足の状態だ。

レジャー・接客サービス業界の雇用人数は現在、20年2月の水準を110万人下回っている。

役に立たない「社内官僚」よりブルーカラー

長引くインフレで景気後退懸念が高まり、コスト削減を迫られるようになる以前から、多くの企業経営者は管理職の人減らしを検討していた。

米コンサルティング大手マッキンゼー・アンド・カンパニーのシニアパートナー、ビル・シャニンガー氏は、役立たずの社内官僚というステレオタイプが中間管理職に対する「30年来の攻撃」につながったとみている。コロナ禍の影響の中、企業の経営幹部が中間管理職らのチームのサポートなしに迅速に戦略や運営を転換することができたことで、その流れが加速したという。

UKGのギルバートソン氏は「多くの人が、自分がやりたい仕事に就くことができず、アメリカンドリームを先延ばしせざるを得なくなるだろう」と言う。

だが、企業は、たとえ中間管理職の数を減らしても、ブルーカラーの職種の採用は続けるとギルバートソン氏はみている。いわゆるラップトップクラス(リモートワークができるホワイトカラーの人たち)も、この2年間で賃金が大きく伸びたブルーカラーの職種にコロナ禍以前よりも魅力を感じるようになっているかもしれない。

「経済全体では働き口がふんだんにある」とギルバートソン氏は言う。「だが、それは働く側が求める種類の仕事ではないかもしれない」

By Taylor Nicole Rogers

(2022年11月8日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)