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公立高入試「一発勝負」いつまで? 置き去りの改革

一発勝負の試験が不公平感を生み、チャレンジ回避につながるという指摘だ。海外ではアルゴリズムで志望をかなえる例もある。抜本改革が手つかずの高校入試は、見直しが進む大学入試と人気の中学受験の挾間に埋没。選考のあり方を再検討しなければ公立高校離れが広がりかねない。

 

「高校は人生を決める大事な選択です。受かりそうな学校を探すのではなく、行きたい学校をしっかり考えてください」

受験生のラストスパートが始まった10月下旬、東京都内の公立中学校で進路選択の三者面談が始まった。23区内の住宅街にある中学校の男性校長が生徒や保護者を前に繰り返し強調する。

都立高校の一般入試は前期と後期がある。全体の約8割が決まる前期試験で受けられるのは1人1校で、チャンスは一回しかない。

都立高校の人気は下降線をたどる。2022年度は3分1の58校が定員割れだった。対照的に中学受験は熱を帯びる。森上教育研究所(東京・千代田)によると、同年度の私立中学受験者は少子化にも関わらず10年前から1割増えた。「6~8校受けるのが一般的」(中学受験塾スタジオキャンパスの矢野耕平代表)と受験機会の多さも魅力に映る。1999年に登場した公立中高一貫校も全国で200校を超え、公立高校の入試離れを強めている。

文部科学省や各自治体によると、公立高校を2校以上併願できるのは兵庫県や京都府などごくわずか。大半の都道府県が公立一般入試の出願を1人1校に限るが、欠点がある。特に「不公平感」や「挑戦回避」といった指摘が多い。

例えば、ある中学校に各校共通の入試で78点だった生徒Aと70点だった生徒Bがいるとする。生徒Aは難関校(合格最低点80点)に落ち、受けていれば合格した準難関校(同70点)は出願できない。準難関校を最初から志望していた生徒Bは合格し、生徒Aは挑戦したばかりに点数で上回る生徒Bよりマイナスの結果になる――。

「1校しか受けられない仕組みはチャレンジの意欲を奪う」。塾講師で「School Post 高校受験ナビ」を主宰する石井知哉氏が批判する。公立校の不合格に備えて私立校を受けざるをえず、経済的負担も見逃せない。

そもそも、一発勝負は高校入試の世界では当たり前とされてきた。国による高校入試の改革議論は「内申書の適切な活用」など大学入試に比べて小ぶりにとどまる。所管する各都道府県ごとに制度や状況が異なり、国主導で見直しや課題把握がしにくい面もある。

受験競争が激化した1960年代に東京都などは「学校群制度」を導入。兵庫県はこれに加え、内申書を極度に重視し学力試験を補助的に扱う「兵庫方式」を採用した。いずれも学力低下や私立人気を招き、批判を浴びたことも抜本改革の機運をそぐ。

長年の慣習に疑問を呈したのが経済学者だった。「1校しか出願できないことで生じる不公平はマッチング理論で解決できる」。そう提言するのはゲーム理論が専門の米カリフォルニア大バークレー校、鎌田雄一郎准教授。参考として海外の事例を挙げる。

米ニューヨーク市は2003年当時、志望の高校に入れず、市から進学先を割り当てられた生徒が約3万人いた。それが翌年に制度を見直すと、3千人と9割減った。

同市が導入したのが「受け入れ保留アルゴリズム」。生徒はまず志望順に出願し、学校側は第1志望者を点数順に「暫定的に」受け入れる。あふれた生徒は第2志望校に回り、学校側は暫定的に受け入れた生徒と第2志望で来た生徒を混ぜて点数順に選考する。

このプロセスを繰り返すことで最大多数の志望に沿った進学が実現するという。ノーベル経済学賞受賞の米スタンフォード大、アルビン・ロス教授らが考案し、米シカゴ市も高校選考で採用した。

日本でも研修医と病院のマッチングのほか、東京大学が学部生の所属を決める進学選択で活用している。筑波大の藤田晃之教授(キャリア教育学)は「受験生も進学先も多様な都市部では日本でも選択肢になりうる」と評価する。

課題もある。米ブルッキングス研究所は「アルゴリズムの中身も公開すべきだ」と透明性の確保を訴える。わかりやすい一発勝負と比べ、受験生や保護者の不安を拭えるかという視点も欠かせない。

公立高校は近年、総合学科など進路の選択肢を広げてきたが、入り口は画一的な入試制度が残る。一発勝負の伝統を見直し、多様な学校選択を促せれば各校が個性を競い、魅力が増すかもしれない。

<Review 記者から>根深い「古典的テスト観」

「国立大学の受験機会が事実上1回に限定されている。受験生は志望や適性に関わりなく合格可能性の高い大学を選択しがちである」。1985年、中曽根康弘内閣の元に設置された臨時教育審議会は第1次答申で、国立大の受験回数を複数にするよう提言した。

「一発入試」が教育改革の中で繰り返し議論のテーマとなってきたのは高校入試だけではない。大学入試センター試験の後継テストについて、文部科学省の有識者委員会は年複数回の試験の実施を検討。だが、メドは立たないまま、2016年の最終報告書で課題を先送りした。

名古屋大の石井秀宗教授(教育測定学)は「日本のテスト文化という壁がどうしても残る」と語る。多くの人が一斉に同じテストを受け、1点刻みで優劣が判定される風習は根が深い。他方で「複数回受験を可能にするには統計理論を元に比較可能なテストを作る必要がある」とも指摘する。

試験だけの一発勝負には家庭環境や所得格差に関わらず結果で評価される利点もある。米国の場合、年に複数回実施するテストのスコアのほか、課外活動など様々な資料を活用して合否を総合的に判断する。

一発入試の弊害はないが、特に難関校の場合、幼少期から様々な経験を積める裕福な家に育った方が有利ともされる。どうすれば、より公平な制度に近づけるか。世界で悩みは尽きない。

(マクロ経済エディター 松尾洋平)

 

高校入試

 学校教育法施行規則は「調査書(内申書)」と「学力検査」による選抜と規定。都道府県ごとに制度は異なるが、公立の場合は「推薦入試」と「一般入試」に大別できる。一般入試で第1志望として公立高校を目指す場合、通常は不合格に備えて私立高校も受ける。義務教育でない高校の進学率は1950年代以降、経済成長の影響で急速に伸びた。「15の春は泣かせない」とする高校全入運動が広がった一方で、受験競争は激化。是正を目指し、東京都などは生徒を各校に割り当てる「学校群制度」を採用したが失敗に終わった。
都は名門校復活を目指し、2001年に進学指導重点校を導入。他の自治体でも内申点の扱いなどの見直しが続く。